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□嗚呼、救世主さま!
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 後ろでサザンドラの雄叫びが上がった。
 振り返って確認する余裕などないリオンに、まずい、げきりんで強行突破しちゃってる、とマーレが説明する。宿り木の呪縛は、狂暴なドラゴンを前に脆かった。
 リオンは、ヒワマキシティから120番道路へと向かっていた。
 明確な地形を把握してのことではない。あのサザンドラが追ってくるのなら、市街へ向かうと無関係な人間に被害が及ぶと考えてだ。
 しかし、その前にウォーグルが行く手を阻む。
 背後からは、サザンドラが怒り狂って、めちゃくちゃに暴れながら迫ってくる。
 絶体絶命。そんな言葉が頭を過ぎった。
 マーレがウォーグルにドラゴンテールを仕掛けるが、お見通しとばかりに躱される。姿勢を崩したところにブレイククローをもらい、リオンの口から、思わず悲鳴が漏れる。
 背後から、唸りを上げてサザンドラが飛びかかってきた。
 フィオレが庇うように立って、リーフストームで迎え打つ。
 だが、フィオレは押し負けた。ちいさな身体が宙を舞う。技を何度も使ってエネルギーを消耗し、かつドラゴンタイプには効きにくいのだ。
 リオンはフィオレをキャッチして、離さないよう抱き締める。
 そこへ突っ込んできたサザンドラを紙一重で躱せたのは、ただの幸運だった。
 突進してきたサザンドラは、怒りの末の混乱状態だった。そして、味方であるはずのウォーグルを攻撃したのだ。ウォーグルの攻撃の手から逃れたマーレが、這うようにしてリオンの元へ戻ってくる。
「ごめんね・・・・・・もう──」
 ポケモントレーナーならば、こういう時、ポケモンをボールに戻して休ませるのだろう。
 だが、そんなものすら持っていない。
 だから、
「守ろうとしないで・・・・・・逃げていいから」
 こんな言葉しか与えられない。
 しかし、リオンは知らないのだ。
「謝るのは後!」
 彼らに、リオンを見捨てるという選択肢がないことを。
 彼らが慕う『リオン』とは、全くの他人のような気がしていた。
 だが今、その人物像が少しだけ見えたように思う。
 どんな時も、慈しんで、真心を込めて、フィオレとマーレに接してきたのだろう。
 逆境にあっては諦めなかったのだろう、今の彼らがそうであるように。
 無くしてしまった記憶が、絆となって語り掛ける。歩んできた道が、信じてきたものが、今こうして生きていることを。
 諦めてはいけない。ここで諦めては、過去の自分を殺すも同然だ。
 フィオレとマーレが求める『リオン』を、自分が殺してはいけない。
 リオンが篤い思いに胸打たれる中、サザンドラがウォーグルの攻撃で混乱が解ける。
 それを見計らったように、土手から悠々と、ツルイが歩いてやってくる。
 彼はくつくつと笑いながら、仕方がないというように肩をすくめた。
「さぁ・・・・・・どうします? 私としてはこれ以上長引くのは避けたいんですが」
「お断りすると言ったはずです。帰るならおひとりでどうぞ」
「おや、つれない。生憎ひとりで帰ると上司をがっかりさせてしまうのですよ。だからこそ救世主の御慈悲を」
「そういうのは天上の神様にお求めください」
「ふははっ! 貴女は神を信じてるんですか!?」
 哄笑が響き渡る。サザンドラとウォーグルが羽ばたく空へ、高く高く。
「ねぇ、答えてくださいよ、救世主さま!」
 リオンは答えない。
 代わりに、応えは空から降ってきた。
「子供を救世主呼ばわりするよりは、ずっと健全だと思いますが」
 よろいどりがけたたましく叫び、サザンドラとウォーグルを威圧するように滑空する。
 そしてその背から飛び下りたのは、ダイゴだった。
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