その他書架
□本日は晴天なり
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カシャリ、物音でダイゴが眼を醒ますと、寝ぼけ眼に光が突き刺さった。
痛みに似た感覚に眼を瞑る。
背中がだいぶ凝っていた。
「う、ん・・・・・・?」
何度か瞬きを繰り返し、ゆっくりと開く。眼に写ったのは、皓々と眩しいデスクトップだった。
書きかけの文章の最後に、意味不明のアルファベットが並んでいる。
あぁ、そうだ、とダイゴは思い出した。昨夜、リオンがソファーで眠ってしまってから、部屋にこもって仕事をしていたのだ。
生あくびを噛み殺し、椅子に腰掛けたまま大きく伸びをする。背中からぽきぽきと音が鳴った。血がめぐり、身体がゆっくりと体温を上げ始める。
自分では疲れていないと思っていたが、寝落ちしてしまうとは。意識がなくなるまで打っていた文章となると、内容も怪しい。後の推敲は丁寧にしなければならない。
続きを入力しようしたが、右下の時刻表示を見てぎょっとした。04:32。デスクから離れ、締め切っていたカーテンを開けると、東の空はすでに明るい。太陽はまだ昇っていなかった。
ダイゴの自室からはトクサネの海がよく見えた。晴れ渡った空の下、金色の雲を映し込んだ波間が、浅瀬の洞穴まで続いている。
「ココ・・・?」
コトリ、硬い音がして、寝台でココドラが身じろいだ。生まれたばかり、甘えたい盛りのちいさなココドラである。
「あぁ、起こしてしまったかい?」
ココドラは金属が擦れるような声であくびをする。そのまま二度寝するかと思いきや、寝台から妙な勢いを以て降りてきた。着地に失敗して、鈍い音がしたのが痛々しい。
ココドラに手を貸して起こすと、ココドラは扉の前へ走って行った。リビングに行きたそうにしているので扉を開けると、短い足でトコトコすり抜けていく。
ダイゴは一度デスクに戻り、起こしてくれたワイヤレスマウスを拾い上げる。ひとまずは書きかけのデータを保存することにした。それからシャットダウンしてしまう。
ひと眠りしようか、それともこのまま起きていようかと考えたが、喉が渇いた。ココドラを追ってリビングに出て、台所に立つ。
ダイゴの家の外見は伝統建築によるものだったが、内装は至って現代的だった。ダイゴが入居する前に大掛かりなリフォームをしたとのことだった。
対面式のキッチンは綺麗にしてある。以前、汚れた状態を放置し、長期間家を空けた時に得た教訓によるものだった。あれはひどかった、と今でも思う。夏場だったから尚更だった。
「ココ〜」
ココドラは空の水入れの器を持ってきた。ダイゴと同じで、喉が渇いていたらしい。
喉を潤して、使ったコップと器を洗って食器拭きのクロスを取ると、おやと思った。
クロスが湿っているのだ。ついさっきに誰かが使ったかのように。
「・・・・・・・・・・・・あ」
そうだ、リオンだ。
リオンが、なにか使った食器を片付けたのだろう。
そのリオンといえば、そうだ、ソファーに寝かせたままだった。
だが、ソファーに眼をやると、彼女はおらず。
「コッコッ!」
ココドラが得意げに咥えているのは、きちんと畳んであった、掛け布団の代用に掛けたダイゴのジャケットだった。