その他書架
□これからのこと
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ヒワマキシティの郊外には、街の名物であるツリーハウスが多く建っている。
その内の一軒。セナの実家は、何十の樹木を利用して建てられたものだった。
通されたリビングは、突き上げ窓から、そこら辺の枝に止まる彼女のポケモンが、時折顔を覗かせる。
ポケモンたちは、ソファーに腰掛けるダイゴを見て、なにやら話し掛けている様に鳴いていた。どうしたのとダイゴの様子を心配しているのか。あなたはだぁれと訊いているのか。よくわからないから、ダイゴは見向きもしなかった。
リオンがいれば、なんと言っているのか教えてくれるのに
そんなことを考えながら、じっと視線を据えていたのは、ローテーブルのど真ん中。麦茶とクッキーが置いてあって、セナが適当に寛いでて、と言い残していったものだ。
こんな状況で寛げるものか、とダイゴは反発を憶えた。
リオンが、意識を失ったのだ。
悠長に茶を啜る方がどうかしているのではないか。
しかし、それを言葉にはしなかった。セナの対処は正しいと思えたから。
リオンの呼吸は正常で、至急処置が必要な外傷もない。瞳孔や眼球運動に異常もないことから、病院には搬送しなかった。
保護者であるダイゴは、警察官の判断に任せることにした。
それに身元不詳のリオンが救急搬送されたとしよう。その経緯を明かせば、それこそ組織で警察が動く事態に発展してしまう。
リオンのことを事件性を持たせて大っぴらにするのは適切ではない。彼女を襲った犯人やその仲間に、余計な警戒をさせるかもしれないのだ。それはあまり利口ではない。
「ガ、ニュー」
メガニウムの声がして顔を上げる。吊り橋で繋がった向こうの部屋から、セナとメガニウムが戻ってきた。
メガニウムはかなりの体重だが、吊り橋はなかなか頑丈のようで、ロープはきしみもしない。
「お待たせ、ダイゴくん」
「リオンは・・・・・・?」
「ん、眠ってるよー」
朗らかにセナは答える。
彼女は職業柄、演技が巧いのだが、言葉は本当なのだろうか。
胡乱な視線を向けていると、セナは眉をひそめて困ったように微笑む。
「心配しなくても、ただ疲れただけだと思うよ。
あ、なに飲む? お茶? コーヒー? ジュースもあるし、水でもお湯でも水道水でも」
「コーヒーをお願いするよ」
「はいはーい」
ブラックでいいのー?と確認しながらキッチンでインスタントのコーヒーを淹れ、メガニウムに運ばせる。
「ありがとう」
「ニュ〜」
リビングに戻ってきて、セナは立ったまま、
「悪いんだけどさぁ、ちょーっと留守番頼んでもいい?」
今うち誰もいないんだ、と右手で辺りを指す。言われてみれば、人の気配はなかった。
「いやぁ、いろいろと積もる話はあるんだけどね。その前に、さ、リオンちゃんに関して、ちょっとやることができて」
「リオンは?」
「そのうち起きるはずだよ。それにフィオレもマーレもついてるじゃないか」
それなら・・・、と言えるほど、ロゼリアとハクリューを信用してはいないが、引き留めるわけにもいかない。リオンのことならば、こちらが頼んでいたことだ。どうして駄目と言えようか。
「わかった、引き受けるよ」
「そう。ありがとう!
お出掛けだよ、リラ!」
モンスターボールを外へと放り投げる。出てきたフライゴンに颯爽と飛び乗り、ダイゴに向けて手を振った。
「すぐに帰ってくるからさー」