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□やったね!
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サイユウシティ、ポケモンリーグ。
大会が開かれていない今、リーグは閑散としている・・・・・・はずだった。
リーグに到着して、施設内部に足を踏み入れたダイゴたちは、常勤の職員がふたり、早く早く!とどこかに駆けていくのを目撃した。
昼休みの時間だった。昼食やテレビが目的かとも思ったが、それにしては方向がおかしい。
「なんだろうね?」
「スタジアムの方向・・・でしょうか?」
リオンとふたり、不思議がりつつ、賑わっている方へと向かう。
彼女の言う通り、場所はスタジアムだった。
皆、観覧席に着いて、試合に沸いていた。その数およそ百人。一般の利用者の他に、出勤している職員も見受けられる。
リーグの職員は四天王なども含め、皆ポケモンバトルは観るのもするのも好きな者ばかりだ。だから、昼休みには職員同士の練習試合が行われることもままあった。
しかし、観客がここまで集まるのは異例だ。
けれど、対戦している一方が、現役の四天王となると納得もできる。
戦っているのはカゲツだった。
対するは、セナだった。
バトルは始まって時間が経っているらしく、観客の盛り上がりはオーバーヒート気味である。
観覧席には下りず、入り口付近の通路で眺めていたダイゴは、対戦カードが魅力的でありながら、不可解だった。
何故、いきなりバトルをしているのだろう。セナは出勤初日ではなかったか。カゲツの顔を見るに、新人を歓迎しての催しではなさそうだ。彼らしくもない、楽しむのを忘れた顔をしている。
ダイゴの横では、リオンがおどおどしている。
「あのっ、ダイゴさん」
「なんだい」
「セナさんにリラをお返ししなくて大丈夫でしょうか!?」
フライゴンのモンスターボールを取り出して、セナと交互に見交わすリオンは、初めて見せる慌てた表情をしていた。
ダイゴはフェンスに肘を突いて、大丈夫だよ、と戦況に眼を向ける。
両者の表情を見れば、どちらが優位なのかはひと眼でわかった。
カゲツが押され、セナが圧倒的に勝っていた。
だが、彼女の表情は余裕ぶっておらず、極めて冷静に対峙するポケモンたちを分析している。いつだってそうだ。勝っていようと、負けていようと。
「リラは、セナさんのパートナーでは・・・・・・?」
「違うよ。セナのパートナーはね、今出ているポケモン」
フィールドで、色鮮やかな飾り羽を靡かせ、旋回しているのはネイティオだった。
セナが愛するアクロバティックな鳥ポケモン。
カゲツが繰り出していたのはアブソルで、両者、パートナー同士の一騎打ちだった。
リオンは不安げに、蒼い眼を揺らしてフィールドを見る。
「相性は不利なように思えます」
「そうだね」
心配そうなリオンに、ダイゴはふっと笑って見せる。
「憶えておくといいよ。セナとそのパートナーは、憎らしいほど逆境に強いってことを」
あのネイティオに、苦しめられた過去があるから言える。
懐かしくて、でも心穏やかには振り返ることができない思い出だ。
セナの表情は、そんな昔を思い出させた。
「戦ったことが、おありなのですか?」
「うん」
「ダイゴさんが勝ったのですか」
「そうだよ。よくわかったね」
斜め下から見上げるリオンの視線から眼を逸らして、ネイティオとアブソルに向ける。
観覧席のフヨウがこちらに気付いて、手を振りながら駆け上がってきた。
「ダイゴさーん、リオン! 遅いよ!」
「す、すみません」
「あはは、別に謝らなくても」
身に纏うパレオのようにふわふわとした物言いのフヨウに、ダイゴは状況を訊ねた。
「三対三のバトルなんだけど、カゲツさんが二体負けてる!」
「セナは?」
「あのネイティオが一匹で追い詰めたの!」
すごいよねー、アタシも戦いたいな!とフヨウが指差すと同時に、セナがネイティオに指示を出した。
最後の指示だった。
「マジカルシャイン!」
凛とした声は三人の元にまで届き、その時にはネイティオが目映い光を放っていた。
観客の眼さえも眩ませ、一瞬だけ静まり返る。
ダイゴが瞑った眼を開けた時、それより早く歓声が湧いた。
アブソルが倒れていたのだ。