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□ふたりの謎解き
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 ヒワマキシティ郊外。ひときわ立派なツリーハウスが、セナの実家である。
 この一家がポケモン愛にあふれているのは、造りを見ればわかった。玄関前に、ライドする飛行ポケモンが離着陸するためのポートもある。ダイゴはそこに、エアームドで降り立った。
 エアームドを労ってボールに戻し、呼び鈴を鳴らす。ほどなくして、緑の髪の友人はにっこりと、ダイゴを出迎えた。
「いらっしゃーい! あれ、ダイゴくん、ひとり?」
「うん、残念ながらリオンは一緒じゃないよ」
「ふぅん、そうなんだ」
 まぁ、上がってよ、とセナが招き入れる。マヒワ家は、今日も人の気配がなかった。また誰もいないのだろう、多忙な一家らしかった。
 通されたリビングでは、メガニウムがポケモンフードを食べていた。ダイゴに気が付くと、挨拶するようにつるのムチを伸ばして振る。礼儀正しいポケモンである。
 ローテーブルの前のソファーには、買い物袋と紙袋が置かれていた。
「こっちが昨日買った服で」
 と、ミナモデパートに入っているテナントのロゴが印刷された買い物袋を指差す。
「こっちはね」
 フエンせんべいと書かれた紙袋には、布の塊がちらりと覗いていた。
「私が着なくなった服なんだけど、よかったらリオンちゃん、着ないかなーって思って」
 ぴらっと取った、一番上の一着は、飾り気のないカットソーだった。これなんかジャケットと一緒に着るのどう、と楽しげに広げている。
「リオンちゃんがいらなかったら捨ててよ」
 微笑んでいる様子は、まるで姉が妹に服を見繕っているような、慈愛があった。きっと昨日も、こんな風にリオンと一緒に買い物をして回っていたのだろう。
「有り難く受けたいところなんだが」
「うん? なぁんか含みがあるねぇ」
 くいっと口角を上げながら、セナはカットソーを畳んで紙袋に戻した。空いた手が向かいのソファーを勧める。これは長くなりそうだと彼女は直感したのだろう。ダイゴは温和しくソファーに腰を下ろした。
「センスの問題かな? だったらショックだねぇ」
「そんなんじゃないよ。昔から、質実剛健な君のセンスはいいと思う」
「そう。それはどうも。じゃあ違うんならなにかな?」
 茶番じみた問答だ、とダイゴは思った。
 飄々と返事をしながら、セナはキッチンに立った。カップをふたつ用意している。コーヒーでも淹れてくれるらしい。
 その背中に向かって言葉を投げ掛けるのに、ためらいはなかった。
「その衣類に発信機の類が仕込まれていないと、君は証明できるかい?」
「ん、・・・発信機? え、発信機?」
 不穏当さに、セナは振り返った。言葉の意味をわかっていないメガニウムも、主人の反応に、両者をおろおろと見比べる。
「私が? リオンちゃんにあげるものに仕掛けるっていうの?」
 セナはきょとんと、琥珀色の眼を瞬いた。
「え? そもそもさ、発信機云々ってのはどういう発想なの?」
「一度よく考えてみたんだ。そしてそもそも、ツルイがシエロ・フェスタに現れたことがおかしいと思ったんだ」
「・・・・・・あぁ、そういうこと」
 元刑事の友人は、持ち前の頭の回転の早さで、ダイゴの言いたいことを理解したらしい。
「つまりダイゴくんは、ツルイがお祭りに現れたのは、私がツルイにリオンちゃんのことをリークしたからって考えたんだね?」
「平たく言えばそうだよ」
「でも、それは間違ってるよ。だって、その日まで、君が保護してる『リオン』という子を、私は男の子だと思ってたんだから」
「その前に、君はリオンをシエロ・フェスタに誘っていたんだろう? 連絡は付かなかっただろうが、メールを見たなら来る可能性も有ると踏んで」
「あぁ、知り合いを誘ってたって言ったの、憶えてたんだね。でもさ、その時点では誰もスエツミ・リオンちゃんの行方を知っている人はいなかったんだよ? ホウエン地方にいるともいないともわからなかったのに」
 メガニウムがポケモンフードを食べ終えた器をキッチンに下げている。それと引き換えに、セナはコーヒーを盆ごと託した。
「それに、ツルイのことはこう考えられるよ。セイバー団側は、ヒワマキシティ付近でリオンちゃんを見失ったと」
 メガニウムの器を洗いながら、セナは易々とダイゴの推理を論破していく。
 ここまで、特に異論はない。元刑事の弁論はあくまでも客観的だった。
「憶測だけど、リオンちゃんが記憶喪失に至る事故があったのは、119番道路周辺なんだよね? フィオレとマーレが保護されたのが天気研究所であることと、その日時からしてもまずまずの推理だ。
 セイバー団はそこまでは掴んでいて、捜索の範囲にたまたまお祭りやってたヒワマキシティを加えただけなんじゃない?」
「つまり・・・・・・お祭りに現れた、ということは、重要ではないということか」
「そうだろうね。ヒワマキシティを捜索してただけならさ」
「でも、リオンは岸に倒れてたんだ。川に落ちたんだよ。その下流を捜索するのならともかく」
「じゃあ、その前にセイバー団はリオンちゃんを見失ったんじゃない? それに、木を隠すなら森の中。人が隠れられるのは、手付かずの自然よりは人里なんだよ」
 自身が暮らすヒワマキシティを人里と称すセンスには驚かされるが、推理自体に破綻はない。
 友人に対する疑いは晴れなかったが、ダイゴは頷いた。
「で、今度はこっちが訊きたいんだけど」
「なんだろう」
「ツルイは何故、流星の滝に現れたでしょうか?」
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