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□ちょっとした騒ぎ
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朝の海辺は、穏やかな風が吹いている。
透き通る青緑の水面に、すいと波を立てながら、ミロカロスが声を上げた。
「はい、アトラ」
リオンは、ポケモンフードとちいさく切ったカゴの実を手から与える。
その後ろではダイゴがユレイドルにきのみを与えている。
平穏な時間だった。世界は、なにも知らなくても朝を連れてくる。昨日のことなど、なかったかのように。そう感じさせるほど。
上空から声が降ってくるまでは。
「リオンちゃーん! ダイゴくーん! おはよーう!」
はっと上を向く。フライゴンに乗ったセナが、手を振っていた。緑の髪がばさばさと、後方になびいている。
「朝から元気だね」
ダイゴが笑みをこぼす。
ほどなく、地上に降りたセナは、早いね、と声をかけた。ロゼリアがぴょこぴょこ跳ねて、フライゴンに挨拶する。
「セナさんは、サイユウリーグにお泊まりではなかったのですか?」
「そうだよ。どこから来たんだい?」
「んー、昨日終わってからギリギリで戻れることに気付いてさぁ。それで急いで飛んで戻ってきたんだ」
ご苦労さま、と声をかけ、やさしく撫てから、フライゴンをボールに戻すセナ。激務後の割に、表情はすっきりとしている。
「リオンちゃん具合はどう?」
「もう歩けます」
「なら良かった。でもお大事にね」
「はい、ありがとうございます」
「そうそう、リオンちゃんとダイゴくんに相談なんだけどね」
セナはモンスターボールを出して、リオンとダイゴを交互に見る。いつもの微笑みを浮かべたまま。
「・・・・・・その子は?」
「見せる方が早いよね。おいで、ルッカ!」
ポンと青い光線を放ち、飛び出したのは、綿のような翼のチルタリス。
どことなくおっとりとした面差しをしている。
「この子はチルタリスのルッカ。どうかな、ルッカをリオンちゃんにレンタルするっていうのは?」
「レンタル・・・・・・ですか?」
「うん。リオンちゃんの手持ちには空を飛べるポケモンがいないでしょう? この子がいれば、セイバー団に追われても飛んで逃げられると思って」
ルッカは澄んだ鳴き声を響かせた。私に任せてね、と誇らしそうに。
ミロカロスが反応し、ロゼリアとハクリューが嬉しそうにじゃれつく。
「セイバー団を逮捕するまで?」
ダイゴが訊ねる。まさかそんなには、という迷いがある口調で。
「ん、そうでもいいし、リオンちゃんが空を飛べるポケモンを仲間にするまででもいいよ」
ハクリューがリオンの足に擦り寄って巻き付く。リオンはよろめきながら、脇の下から突き出された頭を抱える。
ハクリューは、不安がっていた。
「・・・・・・マーレ?」
青い頭をそっと撫でる。不安の原因はわからないが、ハクリューの頭が、甘えるようにもたれかかった。
「ルッカは擬態が得意なんだよ。雲に紛れて、逃げるのも追跡するのもお手のものさ」
「それは有り難い。昨日のようなことがまたいつ起こるかわからないからな」
「起こんないに越したことはないけどねー」
苦笑いを浮かべ、セナは空のモンスターボールを差し出した。
受け取って、リオンはぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます。お借りします。・・・・・・よろしくね、ルッカ」