堕天使、天使を喰らう

□序章
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深夜のサニー号のキッチン。
「……ん、晩酌か?」
キッチンで白煙をくゆらせながら、レシピノートに走らせていたペンを止め、入って来た男のほうへ顔を向け訊ねる。
「……ちげぇ」
 一瞬、テーブルの男に視線を寄越し掛けたが、不機嫌な表情で顔を背ける。
「まぁ、座れよ。
茶ぁ、入れてやる」
開けたままのレシピノートから離れ、日本茶を入れる。
「……あぁ」
「てめぇ、今日は、やけに素直だな。
まぁ、そんなマリモも悪くねぇが。
デリシャスなお茶、お待たせ」
レシピノートを閉じ、ペンと一緒にテーブルの端に纏める。
「……コック……、てめぇは、何で、おれに……、あんな事をした……?」
 向かいに座るが、湯飲みを持ちもせず、問い掛ける。
「ん〜っ、あんな事……?」
 煙草をふかしながら、問い返す。
「てめぇは、おれを……、おれに惚れてるんだろう……?
じゃなきゃ、女好きのエロガッパなてめぇが、あんな……、事っ……。
多分……、おれも、コック……、に……、惚れて……、る……?」
頬を真っ赤にしながら、つとつとと言葉を紡ぐ。
向かい側の男が、一瞬、見せた表情は、獲物を前にした野獣のものか……。
言った事を後悔し掛けたが、もう遅い。
「やっと自覚したと思ったら、疑問形かよっ?!
有り得ねぇ〜っ!!
しかも、おれが、てめぇに惚れてるのは、決定事項かよっ!!
ゾロ、てめぇ、後悔すんなよ?
止まんねぇぞ、おれぁっ」
一瞬、にかっと微笑んで、煙草を消し、向かい側の男の後頭部を掴み、引き寄せる。
「……っ!」
唇が重なるだけのキス。
初めての……。
体を重ねた事は有った、1度だけ。
だが、唇が重なったのは、初めてだった。
「この際だから、言っとくが。
少なくとも、おれは、てめぇよりも早く、ゾロ、てめぇの事、好きだと、大切だと、自覚済みだ。
ちゃんと、そこんとこ教えてやるから、覚悟しとけっ」
返事をする前に、唇が重なり、答える言葉を奪われる。
合わさるだけだったものが、深くなり、与えられる接吻に、何時の間にか、愛しい人の身体に絡み付いていた。

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