季節物。

□声を聴かせて。
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前篇

「おぅっ、ゾロ、もうすぐ、てめぇの誕生日だろ?
 欲しいもん、考えとけ」
煙草の煙をくゆらせながら、食後の食器を洗うサンジの隣で、食器を拭いていたゾロにサンジは告げていた。
「んなの、特別にいらねぇ。おれは、コック、てめぇと過ごせるなら、それ以上は」
洗い物をしていたサンジの動きが止まり、愛しい恋人の顔を、思わず、見返す。
「なっ、何だよ、コック。おれは、何か、おかしい事を言ったのかっ?!」
返事をしない愛しい人に、慌てて、聞き返していた。
「ああ〜っ、違うんだ、ゾロ。何てぇのかなぁ……、本当っ、ゾロ、てめぇはさ、そんな……、可愛いんだっ」
抱き締め様と腕を伸ばそうとして、ふと、洗いものの途中だったのを思い出す。
「なぁ、ゾロ、おれの美人さん。誕生日に、何が欲しいかは、再考しとけ」
煙草の煙をくゆらせつつ、洗いものを再開する。
「さい、こうって、何だ?」
「ぅおお〜いっ、区切る所が違うだろがっ!!あの、な……」
と怒鳴り掛けて、止まる。
──そうだった、ゾロ、こいつは、ずっと、剣一筋に生きて来て……。それ以外の事を覚える事すら忘れるくれぇに、本当に、剣術バカで……。なのに、おれの事、好きになってくれて……。ゾロなりに、知らない事、分からない事、理解しようとしてて……。そんな純粋なゾロが……、美人さんが、大切なんじゃねぇか、おれは。
「コック、どうした?」
食器を拭きながら、愛しい人を心配する。
「ああ、ゾロ、『再考』ってのは、もう1回考えるってことだ」
「ああ、そうか。
 もっ回、考えとく」
素直に答える愛しい恋人を、本当は、今すぐ、抱き締めたい。
が、片付けが今の最優先事項だった。
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