季節物。
□大輪大甘菜
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「ゾロ、美人さん、これだけは言っとくぞ?
もし、おれとはぐれて、迷子になったら、闇雲に動くな。
絶対ぇに、おれが見つけてやっから、な」
そんな話をしたのは、数日前。
「ここは、何処だ。
ったく、コック、あいつは、直ぐに、迷子になりやがる。
本当に、世話のやけ……」
と独り言を呟きかけて、また、思い出す。
「いいか、ゾロ、てめぇは、周囲(まわり)のヤツが迷子になってると思って、探しに行くが……、そう思ってていいから、ジッとしてろ、そうすりゃ、おれの磁石が正確に、美人さんを探し当てる、な?
約束しろ」
そう言って、愛しい人は、柔らかい笑みを浮かべて、小指を差し出していた。
文句を言おうとしたが、迷子になるのを怒るのではなく、それも含めて、何か温かいものに包まれ、頬が紅くなり、そんな顔を背けながら、愛しい人の小指に小指を絡ませていた。
「やっぱり、迷子……、か、おれ」
そう呟き、辺りを見回し、小さな丘にある大きな木へ歩き出す。
その木の幹に体を預けようとして、ふと、風が凪いだ方向を振り返る。
「あっ……」
その瞬間、滑り落ちる体。
どうやら、丘から足を踏み外したらしい。
落ちた方向を見上げると、丘の端まで草が生い茂り、切り立った土壁が覗いている。
自分自身の体を見回すが、痛む場所は無い。
安心した瞬間──。
「……コック。」
「呼んだ?
見つけた、おれの美人さん」
何時の間に現れたのか、背後から抱き締められ、うなじを甘噛みし、ピアス側の耳許に甘い声を届けて来る。
「あっ……」
目の前に広がる風景と白い花弁を揺らしゾロの鼻を花の香がかすっていき、声を上げた拍子に、愛しい人が自分を呼ぶ声を聞きながら、意識はブラックアウトしていた。