短篇。

□日付が変わる頃
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料理人は、自分の城であるキッチンのテーブルで、何時もの如く、煙草の煙を燻らしながら、レシピノートを整理していた。
ふと、時計に、目を向けると、もうすぐ、日付が変わりそうな時刻だった。
「もう、こんな時間か」と独り言が零れ出していた。
ふと、キッチンのドアのほうに、気配を感じる。
見聞色の覇気で感じるまでもなく、ドアの向こうの気配が、愛しい三本刀使いだと、はっきりと、認識する。
「声をかけようか」とも過ったが、相手の出方を待ってみたい気になりレシピノートと向き合う姿勢に戻る。
しばらくキッチンの扉の前を行ったり来たりしていた足音が止まり、ノブを回し、キッチンへ入って来ていた。
料理人の向かいに座り、「……コック、それ、時間、かかんのか?」と聞かれ、「ん?あらかた終わりだな。で、どうした?」と聞き返す。
「へェ……」と問い掛けたにも関わらず、さして、興味も無さげな返事を返して来る。
そうこうしていると、日付の変わる時を告げる、時計の鐘が鳴る。
「コック、誕生日、おめでとうッ」
と早口で告げると、体を横に向ける、三本刀使い。
料理人は思わず、吹き出してしまった。
「…んだよ」と拗ねた様に言うと、椅子から立ち上がり、キッチンを出ようとしたので、すかさず、手を握り、「いやぁ、あんまりにも、可愛いもんだからさ、つい、な。すまねぇ。ありがとうな、ゾロ」と引き寄せ、座らせる。
「おッ、おう」と少し頬を染め、見られぬ様に顔を背けているのが、また、愛しい。
誰よりもはやく伝えたくて、そっと起き出し、来てくれたのが、また、なお、愛しい。
握った手の指を絡ませると、三本刀使いは料理人のほうを見ている。
料理人は、少し、立ち上がり、唇を重ねる。
「…んっ、ん」
と漏れる吐息も愛しい。
啄むだけだった接吻が、舌を絡ませ合うほどの深さになる。
一旦、唇を放すと、「コック、後で、髪、洗ってやる」と言うと同時に、今度は三本刀使いから、唇を重ねて来る。
そんな愛しい姿を見せてくれた三本刀使いをギュッと抱き締めていた。



2015/03/15 UP



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