08/04の日記

05:15
7月拍手
---------------


『六つ子とお家花火』


゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚




一瞬一瞬で色取り取りに花開く煌めきが目に焼き付く。シュンと終息する花火に寂しさを感じてすぐ次の物に手が伸びた。
一松は線香花火のような手持ち花火ばかりに手が伸びている。庭先では、勢いの良い花火を触手に付けた十四松が暴れてはしゃぎ、意味不明な言葉を吐きながら手持ち花火を振り回すカラ松。そんな二人を見て笑い転げるだけのクソ長男と、十四松を心配しながらも携帯のカメラボタンを離さない末松。
カランカラン、と鳴った風鈴にチョロ松は吐息を漏らした。

「……はぁー…」

縁側に浴衣を着て傍観者を決め込んでいたチョロ松は団扇を揺らしながら、側に蹲る一松を見やった。同じ花火で飽きないのだろうか。

「……ねぇ、一松」
「……なに…」
「…なにが悲しくて、浴衣まで着ちゃってさ…二十歳超えた男共が同じ顔首揃えて花火なんてしての?」

シュンと終息した花火をきちんとバケツの中に入れて一松は1歩も動かず、少し振り向くだけでまた同じ花火に手を伸ばす。

「…十四松とクソ松が商店街の七夕祭りの福引で大量に花火セットを当てたからじゃない?」

母・松代のお使いの帰りに十回チャレンジして十個、花火セットを当ててきた。少量のから大きい物まで揃い、花火屋が出来るな!なんて発言をしたカラ松を病院に連れて行こうかチョロ松が心配したのはつい昨日のこと。
因みに帰りは、荷物が多くなり過ぎて彼ら二人でなければ無事帰宅することは叶わなかっただろう。

「…いや、うん。それはそうなんだけどさ…、てか、なんかもう運良いのかわけわかんねーよ」
「…“福”を“引いて”来たんだから、当然じゃん。屑から福引いたら、どこまで落ちるかな、ヒヒ」
「上手いこと言ったみたいな顔すんな」

ドヤ顔を決める一松に冷たくツッコミを放つと、への字口からまた吐息を漏らした。

「…はぁー、僕が言いたいのはさ、なんで呼ばないのってことだよ。十四松もそうだけど…あ、一応カラ松もか…」

呟きながら視線を奇妙な空間に向ける。

「…だって、コレ夢松小説だよ?クソ童貞ニートが唯一女の子と触れ合えるんだよ?」
「…え、チョロ松兄さんがメタ発言…」
「僕だって言いたくないよ?でもね、この狂った空間見てたら言いたくもなるよ。―非公式のくせに何故に六つ子だけで花火しなきゃいけわけ?ケツ毛燃えるわ!」

饒舌に口が動く兄に一松は首だけを動かし見上げる。足を組んだ膝の上に肘を付いて、困り眉の眉間に皺が寄っている。

「…何…イライラすることでもあったの?」
「……」

手の平に顎まで乗せた。ムスッとしたチョロ松は暫く黙ってからボソッと心の内を零した。

「…当選してた会員限定のニャーちゃんのライブが急遽予定変更になった…」
「…あー…、それはご愁傷様…」
「調べたらさ、なんかライブ会場が機材トラブルを起こしたとかなんとかでさスタッフしっかりしろよまじお前らプロを支えるプロだろって―」
「……」

饒舌モンスターになったチョロ松の話を聞きながら一松は花火に点火する。

「―ニャーちゃんのライブ楽しみにしてたのに!!それだけが生き甲斐だったのに!!」
「中止じゃないだけマシじゃない?」
「そうなんだけどさーすっごく楽しみにしていた一ファンとしてはさ」
「確か、明後日もライブ行くよね?そこで会えるじゃん」
「それは通常ライブ!限定の時のニャーちゃんはまた別の魅力が―」
「…あー、そうなんだ」
「ニャーちゃん見れないとか耐えられないっ!ケツ毛の毛根が死滅する!!ヤダぁー!!」

(……チョロ松兄さんはケツ毛を無くしたいのか、生やしたいのかどっちなんだろ…)
遂に膝を抱えて顔を埋め嘆くすぐ上の兄に一松はキラキラと弾ける火花を見つめふとそんなことを思った。
うじうじしたチョロ松は漸く落ち着いたのかまた吐息を漏らした。
頭上で風鈴がカランカランと鳴る。

「…一松、ありがとう…」
「…なにが?」
「愚痴聞いてくれたから…」
「ああ…いいよ、別に。それより、この花火無くならないからチョロ松兄さんもやろうよ」

差し出される手持ち花火にチョロ松は微苦笑を浮かべた。

「じゃあ、やろうかな。そういえば、燃焼中の花火って水の中に入れても消えないんだよね」
「…何それ…水責め?」
「一松、今どっちの感情で喜んでるの?―と、まあ、ちょっと待ってて」

そう言って団扇と受け取った手持ち花火を置いて、チョロ松は家の中に入って行った。
暫く待っているとチョロ松は小さなバケツを持って普段と短い歩幅に気をつけながら戻って来た。
サンダルをつっかけて一松の隣にバケツと一緒に腰を下ろす。一旦置いた花火を手に取り点火する。綺麗に火花を散らす花火を水がたっぷり入ったバケツの中に突っ込んだ。
―ブクブクブクブク―
ひょいと持ち上げれば花火はキまだ火花を散らしていた。

「クッソ水責めww」
「ブクブクブクww」
「www」
「www」

二人は顔を合わせてケタケタと笑い合う。
そんな二人の兄達を遠目で見ていた末弟は、真顔で見ている長男に話かける。

「…ねぇ、おそ松兄さん…あれ、楽しいのかな?」
「……知らね。けど、二人が楽しいならいーんじゃね?」

花火のアイデンティティーもファシネーションも無視する兄達をもう一度見やってトド松はパシャリと一回、携帯カメラのシャッターを切った。

「そだね」
「だろー」



゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚


「…つか、この花火全然終わんないね」

粗雑に積まれた花火の山を見やって蹲ったままの一松はボソっと零した。
他の四人は飽きもせず馬鹿騒ぎを止めない。

「だからさ、善一くんと夏乃さん呼べばいいじゃん。皆でやった方が楽しいしさ。携帯の番号知ってるでしょ?」

さっきから人に連絡を取らせたがる兄の真意を察してはいた。一松は片手で花火の水責めを止めずにジト目で見やる。

「……どうして、連絡を取らせたがるの」
「え、…別に深い意味は無いよ?さっき、始める前におそ松兄さんだってイヤミに酒持って来たら参加していいよって誘いの電話したら断られたって言ってたし…」
「そんな誘い方で来る奴が居んの…?」

呆れる一松を見てポリポリと頬を引っ掻く。
自分の企みに誘導しようしているからなのか、視線が忙しない。
一松は小さくため息を零した。

「…はっきり言ってくんないとおれ話聞けない。っていうか、もし仮におれが夏乃に連絡したとして、鈴香さんが来るとは限らないじゃん。あの二人、結構頻繁に連絡取って会ってるみたいだけど…」
「―ッバ!!?ちち、違うしっ!別に深い意味はないって言ったし!!ていうか、なんで橋本さんの名前が出るわけ?!」

顔を真っ赤にして慌てるすぐ上の兄を見てニヤニヤとからかう。

「だって、チョロ松の目に鈴香って書いてあるから」
「―書いてないわっ!!」
「てか、アイドルレイカという存在がありながら、他に現を抜かすなんて…意外と節操無いね、シコ松兄さん」
「レイカじゃない!ニャーちゃんだっつーのっ!!つか、ニャーちゃんは神聖な存在なの神様女神様なの!どんな人にも笑いかけ生きる―(中略)―だから、そんな邪な目で見るわけがないだろ!!分かる?!」

チョロ松の変なスイッチを押してしまった。一松は鬼気迫る兄の顔面に沿って足の限界まで限界まで仰け反った。

「……ゴメン…わかんない…けど、ごめん…」

謝罪の言葉を聞いてチョロ松は鼻から息を抜いて立ち上がる。着なれない浴衣でずっと座りっぱなしは足が痺れてしまう。
ふと膝を抱え蹲る一松を見下ろす。さっきからずっと動いてない。

「…一松、足痺れないの?」
「……うん…」

妙な間が開いた。不審に思ったチョロ松はジッとすぐ下の弟を見つめる。
カランカランとそよ風に風鈴が揺れる。
(…なんだよ、風流の欠片もない汚い音ばっかして…ていうか、家の風鈴ってこんな音だったっけ?風鈴ってさ、もっと綺麗な音だよ…ね…)
そんなことを考えながら頭上を見上げる。

「―は?」

いつもそこに吊るされている風鈴の様子が違った。
(ていうか、風鈴デカくない?)
風鈴の真ん中に垂れ下がるガラス製の舌の代わりにスマホが三つ垂れ下がっている。よく見ればカラ松と一松と十四松の携帯だ。
ハッとして一松に視線を移す。

「…一松、ちょっと立って」
「…なんで…」
「いいから」
「……ムリ―わっ?!」

チョロ松はムリ、と言って横を向く一松の肩を押す。びっくりして手を付いたが、足は折りたたまれたまま伸ばされなかった。転がったせいで拘束された足首と膝が露見する。

「……あー、バレた…」
「―何コレどういうこと?!」
「…チョロ松兄さん。とりあえず、コレ外してくんない?」

思ったような反応を得られなかった一松は眉の辺りに見せた興奮の色を終息をさせた。
坦々と冷静な調子に状況が飲み込めないチョロ松は言われるがままに縄を解いてやる。

「―ち、チョロ松〜、こっちも頼みたい…」
「―チョロ松にぃ〜さ〜ん〜…」
「…は?」

半泣きのような声音で呼ばれ視線を上げると泣きべそをかきながら花火でサーカス団のような芸を披露するカラ松と十四松が助けを求めた。

「oh…チョロマァ〜ツ…神々に祝福されたギルトガイのオレでも灼熱に咲き乱れる花束は流石に熱いぜ…」
「チョロ松兄さん、早く〜助けてぇ〜」

全くどういう状況なのか理解出来ない様子のチョロ松に一松が説明する。よろよろと立ち上がりながら縁側に腰掛けて足を伸ばした。

「…花火当てた時からずっとクソ松と十四松は宮地先輩とのどかちゃんを誘おうとしてたんだよ…チョロ松兄さんが言ったようにみんなでやった方が楽しいからって……だけど、おれ達六つ子だよ?そんなリア充イベントを黙って見過ごすと思う?―特に、あの二人が、さ――」

ハッと視線を携帯と酒をそれぞれ持つ二人に移す。地べたに座るおそ松とトド松がゆらゆらと立ち上がった。
振り返る二人の顔面が狂気に微笑む。

「…あ〜あ、チョロ松ぅ〜縄解いちゃダメじゃん」
「…もう、チョロ松兄さん普段常識人ぶってるんならちゃんと空気読もうよ」
「そうだぜ?この長男様を差し置いてリア充になるとか何様って感じな。ま、一松にそのお仕置きはあんま効果なかったけど」
「抜けがけとかさせないから。チョロ松兄さんもレイカにこの音声送られたくなかったら大人しくしててね♡」

悪どい笑みを浮かべる二人にチョロ松はワナワナと震え拳を握りしめた。
二人の頭部に火花が散った。

前へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ