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□知ることと知らないこと
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「まずどっちかが信じなきゃ始まらないと思うんだ…。
…あの、先輩…後で椿のこととか、何か情報があったらくれませんか?」
「えっ?」
「C3としてじゃなくて…露木先輩個人として俺に話していいって思ったら!」
真昼のその言葉に、蒼が言った言葉が蘇った。
“真っ直ぐな人”と言った蒼の言葉が、露木の心にストンと収まったように…。
「……君は、不思議だ」と露木は言った。
エレベータに乗ろうとしたところを、「城田…まひるくん?」と声を掛けられた。
先程いきなり現れた溶接面を被った女性だ。
「えっと…」
「あ。私はろきくん…露木くんの同僚みたいなものでして、いろいろごめんね?」
「?…ろき?北欧神話?」
こそっ
「ろきくんのお父さんも…C3の人でね?」
「「?」」
「お父さんは昔、吸血鬼に殺されちゃったの」
事実を聞き、二人の表情は変わった。
吸血鬼に対しての言動、そしてその時の表情の理由が分かった。
空いていた穴にすっぽりと入ったような感覚。
「だからたぶん、ろきくんは吸血鬼を許せないよ」と言われた言葉に、またも胸が締め付けられるような感覚に見舞われた。
…だが、溶接系女子は言った。
・・・・・
「…でも、ありがとう
君のおかげでろきくんは、昨日よりほんの少しだけ吸血鬼を好きになる。
どんな理由があったとしても、嫌いなものばかりの世界は悲しいもんね」
「…っ……世界…」ドクン…
―――――この世界は嫌いよ…―――――
―――――傷付けあい、自己欲を満たそうとする…愚かな人間共…っ―――――
―――――嗚呼…嗚呼っ……全てを壊したい……全てを無くしたい…っ―――――
―――――己の自己欲に身を任せた愚かな人間共に、この世界に、必ず復讐してやる…!!―――――
―――――見ていなさい…私達を苦しめてきた、愚かな人間共め…!!愚かな世界め…!!―――――
キ ――――― ン ッ !!
「うっ…!ああっ……!!」
蒼の脳裏に声が響く。
前より酷い耳鳴りが走り、蒼は両手で耳を抱えた。
スタンガンを当てられた感想を求められていた真昼が、蒼の苦しんでいた声に気付き「蒼?」と声を掛ける。
「蒼!?どうしたんだ!?」
「っ……あ、何でもない、大丈夫よ…ちょ、ちょっと…耳鳴りがしただけ…」
「っでも、今すっげー叫んで…!!」
「だ、大丈夫、ほんとに大丈夫…ね?ほら、もう、鳴ってないから…ね?真昼くん」にこ…
「…っ……う、うん…」
無理矢理にでも笑みを作る蒼。
頭から手を離し、黒猫姿のクロを抱き上げ、エレベータに乗った。
「早く帰らないとね」「お前…ほんとに大丈夫かよ…」「大丈夫だって」クロとそんな会話を交わしている。
蒼を見て、真昼はズキンと心を痛めた。
何かあっても無理して笑って、何事もなかったかのように済ませようとする、一人で抱えようとする蒼。
守りたいと決めたのに…!ぐっと拳を握り、「あの、露木先輩」とエレベータに乗る前に小さく声を掛けた。
「蒼のこと、何か知ってたら教えてもらえませんか?」
「はい?」
「俺…今思えば蒼の昔のこととか、全く知らないんです。
昔こんなことしてたとか、親のこととか…。
蒼は、何かあっても無理して笑って…いつも“大丈夫”って言うから…
俺、蒼を守りたい!」
真昼の真剣なその言葉に、偽りは全く感じられなかった。
それだけ蒼の事を想ってるのがよく分かる。
…けれど、露木は罰が悪そうに、ぽそっと伝えた。
「……本当なら、こんなこと言いたくはないのですが…」
「え?」
「椿もそうですが、もっとも気を付けるべき対象は……蒼さんです」
「え?そ、それってどういう…」