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□雪のような転入生
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#00.雪のような転入生
ピンポ―――ン……
「あれ、誰もいないのかな…」
雪が降りそうな寒い季節。
白い息が周りを漂い、鼻を赤くさせるような気温が覆っている。
灰色の空が街を包むある日の午後、あるマンションのドアの前で、御品物を持って立ち往生してる一人の女子生徒・雪見蒼がいた。
マフラーを首にぐるぐると巻き、温かそうに見えるが持っている手は寒さで震えている。
引っ越しをしてきた為、隣の住人に粗品を持って来たのだが、生憎の留守。
どうしようかな…と御品物をジッと見つめていた。
すると……。
「すいません、うちの部屋に何か用ですか?」
「え?」
声を掛けられた方へと振り返って見ると、同じくらいの年齢の男の子が立っていた。
“うちの部屋”というキーワードにピンと来た蒼はぱぁっと表情を変え、「もしかして城田さんですか?」と聞いた。
蒼の表情にドキッと心動かされた男の子の名は城田真昼。
真昼は動揺しながらも「は、はい、そうですけど」と答えた。
「丁度良かった。私、隣に越してきました雪見蒼と申します。はじめまして」
ペコリと頭を下げる。
「え、あ、えと…城田真昼です、はじめまして」
真昼もつられて頭を下げる。
「これ、御品物です。渡そうと思ってチャイムを鳴らしたんですけど、誰もいらっしゃらなくて…宜しければどうぞ」
「あ、ども、ご丁寧に」
品物を受け取る真昼を、蒼はジッと見ている。
「な、なんかついてるかな?」としどろもどろに聞いてみた。
「あの…もしかして中学生ですか?」
「え?う、うん、そうだけど…」
「やっぱし!私、この近くの中学校に転入するんですよ」
「へぇ!そうなんだ!あ、学年は?」
「来年、三年生です」
「来年三年生…てことは、俺と一緒だ!」
「そうなんですね♪もしかしたら学校一緒かも。その時は宜しくです」
「あぁ!つーか、敬語なんていーから!同い年なんだし」
「!…うん!じゃあ、お隣さんだし真昼くんって呼んでいいかな?私の事も蒼って呼んでほしいな」
「分かった。宜しく、蒼」
「はい!」
お互い握手をする。
蒼から伝わった手の温度に驚き、思わず「冷たっ!」と声が出た。
「あ、あはは…ドアの前でどうしようか悩んでたから」と蒼は照れながら笑った。
「ったく…こんなに冷えるまでいなくても…隣なんだし」
「あはは〜…ですよね。がさいなぁ〜…」
「?…がさい?」
「あ、がさいって、格好悪いって意味です。私、東北の方から来まして、たまに方言出ちゃったりします」
「へえ。っていうか、敬語使ってる」
「あ…あ、あはは〜…今のはつい…」
今初めて会ったばかりだというのに、まるで昔から知ってるような雰囲気に変わる。
何かあったら呼んでいいからと言ってくれた真昼にお礼を言い、それぞれの部屋に戻っていった。
「良かった、お隣さんに同じ中学生の人がいて…」
転校する事に、少し不安になっていた蒼だったが、真昼と知り合いホッとした様子。
明日の転校初日に、感じていた重荷がスッと消えて軽くなると、次の日が来るのを楽しみにしながら荷物の整理を続けた。
一方で、真昼の方も隣に転校生が引っ越してきた事と、その転校生・蒼が可愛く接しやすいタイプだった事に、明日学校へ行く事にわくわくしていた。
もしかしたら同じ学校かもしれない。
早く来ないかな?と旅行や遠足を楽しみにしている子供のように…。