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   #03.7+1





小さく…コン、コン、コン、と聞こえた。
最後にコンッ、と音が響き、それでスイッチが入ったように周りの景色が白くなって包まれていく。








「「!?」」



「何―――…!?…まわりが、白く―――…」

「…景色が、見えない…!」




「…ねぇ、君たち」


声を掛けられ、キョロキョロと辺りを見回していた視線を、声の下方向へ向ける。
視界に捕らえたのは、左右の袖の長さが違う黒い着物と、白くそして赤い血の跡が端全体に帯びている羽織をまとい、サングラスをかけた黒髪の男性。

コンと鳴る音は下駄の音、少しずれているサングラスの先から見えるのは、深い真紅の瞳。
「何か面白い話をしてよ」そう言い現れたその男性に、真昼らは顔を強張らせた。






「最近で一番、面白かったことが聞きたいな」


「ある日、少年は黒猫チャンを拾いましたァ〜。でも、実はそれは超強〜〜い吸血鬼だったのです〜〜〜」

「「!?」」


「力を得た少年はァ、ムカつく手品師をブッ殺しましたァ〜おしまいッ★」

「…めんどくせー予感がする…。に、逃げられるか…?」

「嘘だろっ、まさかまたっ…吸血鬼…


吸血鬼というワードにまるでスイッチが入ったように、男性はニタリと妖しい笑みを浮かべ、そして…壊れたように。





「あはっあははははは、あははっははははははっ、あははっははあっははっあはっはは!!あははははは、あははははははは、ははっあはははははははは、はっははは、あはははー」




まるで壊れた人形のように、狂ったように笑いが溢れだし、そんな様子に真昼もクロも蒼も恐怖と驚きを隠せない。
特に蒼は…もう見ていられない、泣きそうな表情でその男性を見ていた。
笑いは急にピタッと止んで「あ――――――…」と何とも言えない様子の声。





「面白くない」


涼しげな、冷やかな、冷酷と呼べるくらいの瞳で男性は目線を横に逸らしそう言った。
更に恐怖が生み出され、訳が分からないまま硬直する。




「おいクロッ、かくれんなっ。この変な奴、お前の知り合いか!?」

「し…知らね―――…目がやべーよこいつ…」


に゛ゃ―――――と真昼の後ろにしがみつき隠れようとするクロ。
尻尾を持って引きはがそうとする真昼を余所に、蒼は硬直したまま動けずにいた。




(この人が…“椿”…?)







なんだろう 何か知っているような…でも知らない…

この人を見てると 何か 知らない何かが出てくる…

ふつふつと浮き出てくるような…



なんだろう、この感情は…懐かしいのに、切なく哀しい…

思い出したいのに思い出してはいけない、そんな矛盾…


ぐるぐる、ぐるぐる、分からない…




分からない…!







先程とは違い、ふるふると大きく震え始めてしまう蒼。
ドクンドクンと、心臓の鼓動の音が異常に大きく聞こえてならない。
先程から様子がおかしい蒼に、ベルキアは「蒼〜?どうしたのォ?さっきから大丈夫〜?」と問いかけてみる。
だが蒼自身頭がいっぱいいっぱいで返事をするどころではない。
目を見開き震えている蒼に影が重なった。
一瞬身体を強張らせ、ふと上を見上げて見ると、和服の男性がそこに立っていた。










「久しぶり、ようやく会えたね」


「え…」


真紅の瞳と、蒼の大きな瞳がぶつかる。
目を見開いたまま思わず硬直させてしまう身体、けれど何故か、大きく震えていたものは止まっていた。
半ば確信を持ちながら、蒼は男性に問いかけてみる。









「…貴方が……“椿”…さん?」


「っ……そうだよ、●●●●。僕が椿だよ」

「…?」


自分が椿だと言う前、ザー…っと雑音が入ったようにその部分だけ聞こえなかった事に、蒼は違和感を抱いた。
一方で椿は、名前を呼ばれた事にどこか嬉しそうに笑みを零している。
懐かしそうな、けれど泣き出しそうな…蒼は抱きしめたい気持ちに駆られた。
けれどそんな衝動を抑え、蒼は思いを口にした。


















「…私は…貴方のこと……知らない…です…」




「っ……。そっか、今のキミにとっては、僕に対して“初めまして”になるんだね」


「え?今って…」

「…分かっていたけど、やっぱりショックだな。ねえコレ、捜してたんだ。拾ってくれてありがとう」


「え……あ……」


腕の中にいたベルキアをするりと掴み取る。
空になった腕を、力が抜けたように横に戻した。





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