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じたじた
「は〜〜ボク肩こっちゃたよォ〜。遅いよォつばきゅ〜ん」
・・・・・・・・・・・
「つば…きゅん?」
そのあだ名が皆を唖然とさせた。
クロに至っては白目をむいている。
「でも助かったよォありがと、つばきゅん★あとでダッツおごるよォ〜」
「…命助けたお礼がダッツ?」
「うん、アイスの…」
「あはっあはははははははっはははあっは!!はははははは」
「あっ、発動しちゃった…」
「あ―――――――…面白くない」ぽいっ
ベルキアを投げる椿にベルキアは「わァ〜〜〜〜〜っ」と身体を放り投げだされながらも必死に乞う。
「そんなこと言ってつばきゅんたらァ〜。わかった2個!2個おごっちゃうよォ!!」
「僕、抹茶と新作の杏仁味ね♪」
「つばきゅん…新作までチェック済みじゃん…」
そんな二人のやりとりに、真昼は少し呆れたように「まためんどくさそうなのが出てきたなあ…」と呟く。
だが蒼はアイスという名に反応し、はあはあと息を吐いている。
「?どうした蒼…」
「ア、アイス…杏仁味、新作…?わ、私も食べたいっ…2個、いいなぁ……私も新作の杏仁味と、大好きなミルクコーヒー味を…」
「おい落ち着け!アイスが大好きなのは分かるけどっ!さすがに敵に奢ってもらうのはダメだって!」
「ダメ、ダメよ…アイスが…アイスがっ…私を、呼んでるのっ……はあはあっ」
「落ち着けって蒼!!〜〜っ分かった!!後で俺が買ってやるから!!」
頬を紅潮させ、よだれを垂らしながらふらふらと歩み寄って行こうとする蒼の両肩をがしっと掴み必死に止める真昼。
そんな蒼を見て「向き合えねー…」と呟くクロ。
なんだこの、アイスに対しての執着心は…そう思う他無かった。
「それにしても…」と真昼は蒼を落ち着かせてもう一度二人を見やる。
「でも…まさか、いきなり…出て来ちゃったんじゃ…?つばきゅん…て」
「おいやめろ、深く考えるな。それより早く逃げる方法を…」
「僕が“椿”だけど、何?」
すかさず真昼の前に移動してきた椿。
その空気は異様で、真昼もクロも表情を強張らせる。
「このケンカの売り手は僕だけど。…何?吸血鬼も人間もとにかくたくさん殺したいのは、僕だけど…。何?」
急にガッと掴まれたクロはに゛ゃっ?!と鳴き、真昼の肩から地面へ一気に叩きつける椿。
その衝撃でクロは人間の姿になり、ずだんっと打ちつけられた。
「…僕はとっても憂鬱なんだ」
「?!」
「ねえ“怠惰”のスリーピーアッシュ」
「?!いてえ」
「何か面白い話をしてよ。何もないなら…世界がつまらないってことに異論はないね?」
―――――ドクン…―――――
「……世界ガ……ツマラナイ…?…世界…?」
再び起こる大きな鼓動の揺れ。
けれど、いままでとは違う。
まるで機械のように呟いた蒼の脳裏には、一瞬背景が浮かんだ。
レンズがズームインするように…。
―――燃え上がる炎―――
―――人々の恨み―――
―――暗闇から降り続く雪―――
―――黒いマントで身を包む、一人の女性―――
(な、に…?今のは…)
・・・
「じゃ、戦争しよっか。…ねえ、兄さん」
(……椿、さん…。なして…そんな悲しそうな瞳をしているの…?)
胸の前でぎゅっと拳を握り、ただただ、深い真紅の瞳を見るしか、蒼には出来なかった。
そんな蒼を余所に会話は進む。
「…何言ってるかわかんねーよ!!なんだお前…っ」
そう叫ぶ真昼の後ろへクロは隠れ、背中を押す。
「…人違いですよ…」
「クロ!!隠れんな!!」
「だって…知らねーし…」
「押すな!!」
?をかざしているところを見ると、本当に知らないようだ。
それを聞いた椿は「…あはっ」と笑い始め、蒼は椿を見やる。
「あははははっ!!ひどいひどいなあ!!ははは面白くないっ。“怠惰”も僕を知らないんだ!?サーヴァンプの兄弟全員…結局誰も知らなかった!!」
不気味に強く、笑い声が響く。
頭上を見上げて笑う椿。
ぴたっと止まり、チラリと蒼を見ると、目が合う。
ふっと笑うと、「…それじゃあ」と言葉を続けた。
「…僕は、だ―――れだ…?」
―――――ドクン…―――――
―――――『………わたしは…だあれ…?』―――――
「え…?」
大きな鼓動と同時に蒼の頭の中に響いた、椿と同じ言葉…。
酷く悲しそうなその声に思わず頭を手で抑えた。
後ろにいる蒼の様子を、真昼は知る由もなく。