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□よみがえる幻影
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   #06.よみがえる幻影





     ―――――桜哉くん…―――――




     ―――――つらそうだった…―――――




     ―――――いつも、みんなを楽しませてくれて…―――――




     ―――――明るくて、いつも…頭を撫でてくれてた…―――――














     ―――――……ねぇ、桜哉くん―――――




     ―――――なんで…?―――――















     ―――――何で…そんなに、悲しそうなの……?―――――



































――――――――――……




「……桜、哉…くん…………っ!桜哉くんっ!!……て、あれ?」



布団からバッと身体を起こした蒼。
キョロキョロと辺りを見渡すと、そこは病室だった。
誰もいない、一人部屋の病室に蒼は眠っていたのだ。
知らぬ間に制服も着ておらず、代わりに病院用の服を着ている。
隣には鞄と傘が置いてあった。




「……ここ、病院?……あれ?……えっと、私…どうしたんだっけ…」


頭を抑え、何があったか思い出す。
雨の中桜哉と会い、様子が変だったのでついていってみると、回転寿司の中へと入っていく姿が映った。
そして店から出て来た人の話を聞くと、死体を持った学生が入ってきたと。
それが桜哉だった…しかも、向かっていった所にいたのは、椿…。






「っ桜哉くん!!」

布団から抜け出し、部屋を走って出て行こうとする蒼。
目の前にある扉をバンッと思い切り開け走ろうとしたところを看護婦にぶつかった。







「わっ…す、すみませんっ」

「いえ、大丈夫ですか?」


「は、はい…」

看護婦のふわりと微笑む笑顔に、蒼はどくどくと動いていた鼓動が段々と落ち着くのが分かった。
「運ばれてきたばかりなんですから、安静にしてないとだめですよ?」そう言い残し、看護婦は去って行った。






「……そっか…私、木陰に隠れて…そのまま気を失ったんだっけ……」


冷静になった蒼は病室に戻り、パタンと扉を閉めた。
扉に背を預け、蒼は俯く。
桜哉の事が気になり、気持ちはただ沈むだけで…。
蒼の頭の中に、桜哉の悲しそうな顔が浮かんだ。






「桜哉くん…」

すると、後ろの扉が横へスライドされた。
寄りかかっていた蒼は、急に開いたドアと一緒にスライドされて…。





「わわっ!」

バタンッ


こけてしまった。
すると後ろから声を掛けられる。










「いったた…」




「あ、ごめん。大丈夫?」


「え?」

後ろをゆっくり振り返ると、鼓動を一つ、大きく揺らいだ。
目を見開く蒼、そこには…。




「大丈夫?蒼。扉の前にいるとは思わなかったから。目、覚めたんだね」








椿だった。

スライドされ、コケて四つん這いになったままの蒼に、椿は横から手を差し伸べ、優しく微笑んだ。
「立てる?」と、差し伸べた手で蒼の手を持ち、ゆっくりと立ち上がらせた。
何も言葉が出ない蒼は、立ち上がっても椿をジッと真っ直ぐ見つめていた。




「?…僕に何かついてる?」


「……いえ。何も…」

「あはっ、蒼は素直だなぁ」





「……椿、さん?」


「っ……なあに?」

「!……」


名前を呼んだだけなのに、椿がどこかつらそうな表情を一瞬見せたのが分かった蒼。
会った時から、ずっと聞きたかった事を聞いてみた。







「…椿さん、は…何で私を知っているのですか?」


「……知りたい?」

「は、はい…」


「……」


椿は目を細め、ゆっくりと目を閉じた。
蒼も、一瞬目を見開く。
あの時見た怪しげな笑みではなく、かといって優しくてどこか切ない瞳でもない。
再びゆっくりと開いた瞳…真っ直ぐとした真面目な瞳と表情を映している…。





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