Word

□守るということ
2ページ/7ページ







――――――――――……





こっそりと入り、蒼の寝ている病室の前に辿りついた桜哉。
静かに、音を立てないように中へ入る。
既に消灯時間、部屋の中は真っ暗で、まるでどこまでも続く闇の世界に見えた。
ふとベッドの方を見ると、姿勢良く眠っている蒼が映る。


(……蒼…)




中へ進み、眠っている蒼を見た。
まるで永遠に冷めない眠り姫の様に安らかな表情で…すやすやと眠っていた。
手を伸ばし、蒼の前髪をさらっと優しく掻き分けた。
…すると。




「ん……」


「っ!」



声が漏れ、まずいと思った桜哉はバッと手を離した。
その場を退散しようと思ったが、蒼の目は開かない。
どうやら寝返りを打っただけのようだ。
ほっとした桜哉、だが蒼からあるものが見え、目をぎょっとさせた。









「な、泣いてる…?」



夢でも見ているのか、涙を流していたのだ。
悲しい夢を見てるのか?…桜哉は心配そうに蒼の頭を優しく撫でた。
その時…。







「……んね…」



「え…?」











「……ごめん、ね……桜哉、くん…」




「っ!!?」


「…気付いて…あげら、れ…なく……て…………ごめ…ん……ごめん、ね……?」

「っ…蒼っ」



夢の中までも、桜哉の事を心配している。
どこまでも優しい蒼の涙が、桜哉の胸をズキンと刺すようだった。
つらい表情を露わにする桜哉は、涙をすくい、蒼に近付く。












「謝るのは、オレの方だ…。ごめんな?蒼……ごめん………ありがとう…」



徐にポケットの中にあった包みを置こうとしたが、それを止めた。
代わりに、手を縛っていた蒼のハンカチを畳み、蒼の制服の上に置いた。
桜哉は直ぐ様窓から出て行き、姿を消した。






いつものショップに蒼と買い物に行った時、ふと目に入ったもの。
蒼に似合うだろうな…思わず買っていた。
誕生日にでもあげようか、そう思いながら、くすぐったい気持ちでそれを手にとって見ていたのを、今でも覚えてる…。
本当なら目の前で直接あげたかったと思い、そこに置くのを躊躇ったのだ。
もう戻れない…という思いを込めて、血がついたままの蒼のハンカチを戻した桜哉。






「……お休み…蒼………さよなら…」










































一方その頃…。




「……」

「ん?どうしたクロ」

「……いや…」


少し様子がおかしいクロ。
真昼もクロの様子が違う事に気付き問いかけてみたが、クロは答えなかった。




「そういや蒼、もう帰ってきてんのかな。こっち来なかったけど…」


病院の人と長話でもしてたのかな…。と心の内に思う真昼。
そんな真昼の思いとは裏腹に、クロは別の事を思っていた。






「…オレ、そろそろ寝るわ」

「ん?ああ、お休み」


リビングを出たクロは、真昼の部屋に入り、閉めてあったカーテンを開けた。
カラカラカラッとベランダに続く窓も開く。
スッ…と隣の仕切りの壁を見た…蒼の部屋のリビングがあるのだ。
外に出たクロは黒猫の姿に変わり、塀の上を辿って蒼の部屋に辿り着いた。
カーテンは開けっぱなし、窓に手を当て、スライドさせようとすると簡単に窓が開いた。
「不用心だな…」そう思う他無いクロは、とことこと蒼の部屋に入り、辺りを見渡してみる。
だが様子がおかしかった。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ