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□うそつきはだれだ
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   #08.うそつきはだれだ





『……また、この夢だ…』


雨…暗闇の中、強く降り続ける雨…。
傘も差さずに佇む一人の少年。

蒼はその姿が桜哉だという事をすぐに理解した。
『桜哉くん!!』叫ぶ蒼。
桜哉は蒼の方へ振り向き、その表情は今にも泣きそうな、悲哀に満ちたもの。

最初に視た時と、同じ光景…。








『桜哉くん……』

『蒼っ…なんで…』

『桜哉くん、悲しいんだよね?私…どうすればいいの?何か出来ることはある?』

『っ……蒼、なんで来たんだよ。お前が来なければ…』

『…私、いない方がいいの?』




『お前が来なければ…いつだって、笑っていられたのに…』


『桜哉、くん…』

『お前だって…それを望んでただろ?なのに…なんで……』

『私は、桜哉くんに…酷い事をしてしまったの?』



繰り返される桜哉の言葉。
問いかけても答えず、桜哉は言葉を続ける。















『なんで…お前なんだ?』

『……私…』




『お前が、あの雨の中オレに気付かなければ…

 オレなんか気遣って、後を追ってこなければ…

 オレは今…皆の隣で、蒼の隣で笑っていられたのに…


 オレは明日も、蒼の望む世界にいられたのに』





『わ、私は、桜哉くんに……桜哉くんに笑っててほしい。それが、私の望むことだよ?』

















『こんな簡単なことで、世界なんて壊れていくんだよ』




『っ!!待って桜哉くん!!……ま、待って……あ………ああ……っ!!』


桜哉はスーっと姿を暗闇に消していくところを、追いかけようとする蒼だが…。
顔を覆い包み、また、あの声が響く…。





















     ―――――望む世界…(望む世界…)―――――





     ―――――人々が、焼かれていく…(全部、焼かれてしまえ…)―――――





     ―――――壊れてしまう…(壊れてしまえ…)―――――









     ―――――こんなもの、私の望む世界じゃない…!―――――



     ―――――(全部全部、死んでしまえ…!)―――――







『ああ……っ…あつい…っ……あついっっ…!!ああああああ…っ!!!』































――――――――――……




バチッ

「っ!!はぁっ…!……はぁ…はぁ……」





目を覚ました蒼。
自分の部屋の天井が見える。
息が荒く、汗もかいていた。
「……また、あの夢…」そう呟きながら、額に手を当てた。
目を閉じ、深呼吸をして、ドクドクと動く鼓動を落ち着かせた。

最近、何度も夢を視る。
桜哉が雨の中で同じ言葉を繰り返し、姿を消していく。
そして、頭の中に響くコエと、暗闇の世界で響くコエが重なり…シャットアウトされて目が覚める。
…だが、最後の終わり方が今までとは違った。







「……桜哉くん…何を、伝えようとしているんだろう…。それに…あの声の後の…」



はぁ〜…と溜息をつく蒼は、身体を起き上がらせようとしたが…。
起きてはみたが、どうにも身体が重く、思うように動かない。
頭も、重りがのしかかったようにふらふらしている。
何だろう…と思いながら、ベッドから抜け立ち上がった。





「……準備…しなきゃ…」


制服に着替え、なんとか洗面所に向かい支度を整える。
食欲が湧かず、蒼は食べずにお昼のお弁当だけ用意し始めた。






「………桜哉くん…学校、来るかな…?」



そう呟く蒼。
桜哉のいつもの笑った表情が目に浮かぶ。
と同時に、夢で視た悲しい表情も映しださせる。

お弁当の準備も終わり、まだ時間があるからとソファーに横になった。
身体が重く、動く気力がない。
つらそうに、蒼はそのまま目を閉じた。
そして時間はあっという間に過ぎ、突然チャイムが鳴った。





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