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□うそつきはだれだ
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――――――――――……






『……やっぱし、またこの夢だ…』




雨…暗闇の中、強く降り続ける雨…。
傘も差さずに佇む一人の少年。

蒼はその姿が桜哉だという事をすぐに理解した。
『桜哉くん!!』いつもならそう叫ぶ蒼。
だが蒼は何も言わず、桜哉へゆっくり近付いて…『桜哉くん…』と、名前を呼んだ。
振りむく桜哉の表情は、今にも泣きそうな、悲哀に満ちたもの。

同じ光景が、繰り返されている…。





『桜哉くん、聞いて?』

『蒼っ…なんで…』

『桜哉くん、いつも笑っていたよね。…それは、悲しい事を隠す為に作っていたの?』

『っ……蒼、なんで来たんだよ。お前が来なければ…』

『それは、私にも、真昼くんにも言えない事なの?』


『お前が来なければ…いつだって、笑っていられたのに…』

『…桜哉くんが悲しいのに、笑っていてほしいなんて思えないよ』

『けどお前だって…それを望んでただろ?なのに…なんで……』

『私は、無理に笑っていてほしいなんて望まない』



繰り返される桜哉の言葉。
問いかけても同じ言葉しか答えず、桜哉は続ける。















『なんで…お前なんだ?』

『…桜哉くん』





『お前が、あの雨の中オレに気付かなければ…』

『気付くよ、桜哉くんだもの』



『オレなんか気遣って、後を追ってこなければ…』

『気にするよ、あんなつらそうな顔を見たら』



『オレは今…皆の隣で、蒼の隣で笑っていられたのに…』

『…それは、無理にでも笑ってないといけない事なの?』





『オレは明日も、蒼の望む世界にいられたのに』


『私は、桜哉くんが悲しいまま笑っているのなら、そんな世界望まない!』









『こんな簡単なことで、世界なんて壊れてい『壊れないよ!!』





『っ!?』


いつもなら桜哉が言い残した後、闇の中へと消えていき、そしてあの声が聞こえる。
だが何度も夢見る内に、夢の中の桜哉に自分の思いを訴えれば変わるかもしれない。
そう考えたのだ。
思惑通り、桜哉は蒼の言葉で留まり、闇の中へ消えることはなかった。

そして、蒼は戸惑う桜哉に対し、ふっと微笑んだ。
桜哉の両頬に自分の両手を当てて真正面を向かせた。











『つらいことが、あったんだね…』




『!』


『“目の前にある事だけが、真実とは限らない。”前に読んだ、推理小説に載ってる一説』

『…蒼』





『ごめんね?』

『え…?』


『…私、桜哉くんの事…何も知らなかった』

『……蒼が、謝る事じゃねーよ…』




『…こうして触れてみて、分かるよ?桜哉くんが、とてもつらい気持ちを抱えてる事』

『……オレは………オレ…っ』

『うん…うん。大丈夫…大丈夫よ?…少しずつでいい。教えて?』

『だめだ、こんなドロドロした…汚い気持ちなんて…っ』


『いいよ…いいんだよ?その気持ち、全部…全部……



























 私が受け止めてあげるから



その言葉と同時に、蒼は桜哉の両頬から手を離し、そのまま首の後ろに手を回した。
優しく、包み込むように、桜哉を抱きしめたのだ。
耐えきれなくなった桜哉は、しがみつくように蒼を強く抱きしめた。
溢れだす涙、泣きすがる姿、子供をあやすように頭を撫でてあげる蒼。
必死に言葉に置き換える桜哉の話を、うんうんと、ゆっくり耳に入れていく。





『……オレは、嘘つきだ…っ』

『うん…』

『嘘つきの街で生まれた…』

『…うん』

『嘘つきの子供…』

『……うん』


『ホントはさ…もっと…もっと…っ』

『…うん』












『笑ってたかったよ…っ』



『…うん。うん。…笑おう?一緒に笑おう?』







『…でも、だめなんだ…』

『?…だめ?何で?』



『オレは…あの時…椿さんに……』

『!…椿、さん?』






















『…ありがとう、十分だ…っ』




『っ…ま、待って?まだあるんだよね?まだ言いたい事あるんだよねっ?』

『いいんだ、蒼。ありがとう……ありがとう、蒼…』



スッ…と蒼から離れ、桜哉は闇の中へと消えて行く。
『待っ…!!』手を伸ばすも届かず、蒼は暗闇に降る雨の中、一人取り残された。
たった一人取り残された蒼は、下に俯き、救えなかったと後悔の念を抱く。












『桜哉くん…』




ポツン…

一粒の涙が、地面に滴り落ちた。
すると涙が落ちた所から光が周りを照らした。
『っ!』突然の事に驚き、目を見開く。
雨は止み、まるでその光が全体を照らすように。





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