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□取り戻した唄
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   #10.取り戻した唄





「あの、ありがとうございました。すみません…こんな夜遅くなのに、送って頂いて…」


ぼそっ

「気にするな…」



夜分、マンションの前に蒼とジェジェがいた。
一日休んでしまった分、明日にはちゃんと学校に行って文化祭の準備をしないと。
そういう理由で、ジェジェに送ってもらっていた蒼だった。
…ちょっと回想モードに入ろう。











『文化祭かー…懐かしいなあー』


『はい。今日休んでしまったので、明日は行かないと』

『蒼ちゃんは何かやるの?』

『クラスで喫茶店をやります。あと、部活でコーラスを…』

『そっか。蒼ちゃんは歌うのが好きなんだね』

『はい!なので、明日からみっちり練習しないと』

『でも熱下がったばかりだし、あまり無茶しちゃだめだよ?…って言っても、無駄かもしれないけど』

『え?』

『もう夜遅いし、ジェジェが送るから安心して?』

『えっ、そ、そんなっ。申し訳ないですよ』

『全然!気にしなくていーよ。寧ろオレは、ジェジェが送り狼にならないか心配…』






ドンッ

『(怒)』



『あれ〜〜〜?図星だったあ〜〜〜?やだやだ、下心あるなんてサイテー。ねーアベルー?』

『(怒)(怒)(怒)』




ドドドドドドドドドドッ

『きゃーーーうーたーれーるーあはは〜〜〜(笑)』


『……あ、あの…』















先程の出来事を思い出し、蒼は汗を垂らす。
「…あの」と声を掛ける蒼に、いつものようにぼそっと「…何だ」と答えた。





「御国さんと、仲がよろしいのですね」


ぼそっ

「……何故、そう言える」







「楽しそうでした」



ぼそっ

「楽しくない…」


「そ、そうですか…」

即答だった。





























――――――――――……



自室に戻った蒼。
お風呂に入り、大好きなアイスを食べて、蒼は眠りについた。
そして夢を視る…桜哉とその姉がブランコに座っていたあの公園に…。













――――――――――……




目を開けると、一人ブランコに座る桜哉の姿。
びくびくしながら、一人で何か呟いている。
きゅっと胸が締め付けられる蒼は近くへ歩み寄った。





『…嘘をついた。オレが…姉ちゃんを殺したんだ』


(違う…違うよ…桜哉くん…)




『姉ちゃん…なんで…オレが死ねばよかった…』


(そんなこと言わないで…っ)




『オレのせいで…』









『君は何も悪くないよ』


(っ…つ、椿さん…)

隣に座る、椿の姿。
今と何ら変わらない姿、様子で…。




『…何も君のせいじゃない。つらいことがあったんだね』


その言葉に、幼い桜哉は涙した。
蒼は、その瞬間を見て、すぐに分かったのだ。




『…大丈夫。

 ・・・・・・・
 全部終わったら、必ず迎えに来るからね』




(…この時、桜哉くんは…椿さんに………椿さん…)


つぅ…と頬を伝う蒼の涙。
目を閉じ、ぽたりと雫が地に落ちると、目の前の光景はゆっくりとフェードアウトするように暗闇に消えていく。





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