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□取り戻した唄
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そしてゆっくりと目を開くと、そこにはあの雪原の景色。
真っ暗な空にまあるい満月、空からしんしんと降り積もる雪。
ぽつんとある白いテーブルとイス、そして目の前には…あの女性。










『真実とは、いつの世も残酷なものよ…』

『……』



蒼の流した涙に表情を曇らせたが、すぐに目を閉じ気付かせないようにした。
『座るが良い』近くある白いイスに目をやる。
蒼は気分を落としたままカタンと座った。




『…熱は、下がったようだな』


『…はい』

『解熱剤の効果か』

『はい。御国さんから頂いたから、すっかり』





『……そうか』


『…?』




それから沈黙が重なる。
蒼はじっと見つめていたが、女性の様子はまるでどこか懐かしんでいる様子だった。
知っているのだろうか…?
すると女性とパチンっと目が合い、女性はにこっと笑みを浮かべた。
あまりに綺麗で、思わずドキッと心揺らいでしまう程に…。
頬が熱くなり下を向いた後、パチンッと指を鳴らす音が聞こえた。
顔を上げてみると、蒼の前にティーセットと、お菓子セットが出てきた。
『っ!』白いポットとカップの淵には雪の結晶が描かれていて、銀食器のスプーンがカップを乗せている皿の隣にコトンと置かれている。
そしてテーブルの中心には3段のティースタンド、皿が下段から大中小と上段につれて、中心には銀の柱が支えている。
皿には色とりどりのお菓子やケーキ、飴やクッキー等が並べられていて、まるで小さなお菓子の城に見えた。




『タルト、ミルフィーユ、モンブラン、ショコラ…クッキー、スコーン、フィナンシェ、マカロン、ギモーヴ…その他諸々』

『わあ…こんなに沢山…』

『遠慮なく食すが良いぞ。まだまだ出てくる』

『…でも、こんなに食べて太らないかな…』

『前にも言ったであろう、ここは夢と現実の狭間。時間も空間も、何もかもから切り離された世界』

『!…前に視た、真昼くんの夢の中で……あ、いや…正確には、聞こえただけで…そのセリフ、同じ…』

『……』

『…そういえば、そこで聞こえた声も…貴女と同じ』

『……』

『真昼くんに、会ったことがあるんですか?ここは、真昼くんの時に貴女の声が聞こえた所と、同じ世界なんですか?』

『……同じだ』



そう返事をした後、自分のカップを手に取り、静かに紅茶を口にした。
その表情は、何も話したくないような様子だった。
蒼も女性の様子を察知して、何も言えなくなってしまったのだ。
蒼の様子を見て女性は『何を気にしている?』と問い掛けた。






『…だ、だって…話に触れてほしくないような…そんな顔だったから』


『…』

『か、勝手な見解で、すみません…』

『……』


紅茶を口にしながら、困っている蒼の顔を見ている。
縮こまっているその姿は、何ともまあ小動物と同じで…少し懐かしい瞳をした。
いつかの時も、こんな風に困っていたのを、昨日のことのように覚えている。
『ふう…』カチャリ…とカップを皿の上に乗せ、テーブルの上に置きながら呟いた。








         ・・・
『…そっくりだな…あの者と…』
ポソッ

『…?』


小さく呟いた声に、蒼はようやく顔を上げた。
キョトンと見る蒼に、女性はどこか断念したように…だが何かを決めたように…。
俯いていた顔を、女性は顔を上げて真っ直ぐと蒼を見据えた。







『そなた…本当にこれ以上関わるのか?吸血鬼達と…』




『…はい』

『どうしてそこまでこだわる?』

『関わった人たちのこと、大事にしていきたいです。…それに…』

『…“憂鬱”…か…?』

『っ!……はい。ほうっておけない。私が関わっているのなら、尚更…』

『…それで、もっと悲しい思いをするかもしれぬのに、か…?』

『はい、もう決めたんです』

『私は、関わってほしくないというのが本心だ』

『心配、してくれてるんですね』


ふと笑みを零す蒼が言うセリフ、女性はどこか照れくさそうにそっぽを向いた。
『……ふん』カッコつけてティーカップを持ち、ずずっと飲んだ。
それを微笑ましそうに見守る蒼。





『そういえば…』

『ん?』





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