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□悔しさから生まれる思い
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「あの、リリイさん」

「何でしょう」



「前に、御園くんの家に行って怪我した時のことなんですが…」

「はい」




「手当てして頂いた時、いえ…それだけではなくて、ベルキアさんに初めてお会いした時も…言われたんです」










「…蒼さんから漂う、オーラ…ですか?」



「っ……はい。私には、よく分からないのですが…ベルキアさんは、熱いって…」

「そうですねえ…けれど、蒼さんといると、何と言いますか……何とも言えぬ気持ちが湧き上がるといいますか…」

「それで、リリイさんは不快ではないのですか?」

「いえ、それは全く」

「けど、他の人からは感じない。他の人とは、違う。…“異質”…なんでしょうか」

「…あまり、良い言葉ではありませんが…そうかもしれませんね」

「……」




自分で言った“異質”という単語。
きゅっと胸が一瞬苦しくなるのが感じられた。
曇った表情の蒼に、リリイは気付き「どうかしましたか?」と尋ねてみる。







「どこか具合でも悪いんですか?それなら、ちょうど病院ですし、診察してもらっては…」


「っあ!い、いえ!違うんです、大丈夫ですから」

無理に取り繕う笑顔。
どこかぎこちなかったが、えへへと笑みを零す蒼の微笑みに、あまり納得していないながらもリリイはふと笑みを返した。
「さっき御園も言っていましたが、無茶はしないでくださいね」と伝えるリリイ。
そう言われても、蒼は「……ありがとうございます、リリイさん」と、決してうんとは言わずに…。
リリイは蒼の問いかけにどこか引っかかりがあった。
本人も気にしている様子…。










「蒼さん。先ほど言った通り、私は蒼さんの事を不快に感じていません。寧ろとても心地良いです」






「え…?」



「どこか違えば、誰だって不安になるのは分かります。恐怖に苛まれることも…」

「……」

「ですが、蒼さんには笑っていてほしいです。その為なら、私もひと肌脱ぎますよ」するり…

「……リリイさん…」

「おや…」




いつもならキラキラした目で感動する蒼だが…。
真っ直ぐ見つめて何も言わない蒼に、リリイは蒼の無反応を見て服をすすすと元に戻した。
不安を拭いきれない思いの中、リリイの言葉に救われた気持ちになる蒼。
胸の奥がほっこりと温かくなったのを感じた。
リリイを困らせてしまったことに申し訳なく思い「…私、ダメですね」と、ぎこちない笑顔でようやく言葉を返した。






「お見舞いに来たのに、逆に心配させてしまって…」


「無理もありませんよ。私にとっては良くても、蒼さん自身が不安になるのは…」

「…でも良かった、不快じゃなくて。もしそうなら、私本当にどたら良いのか…」

「蒼さん…」

「でも、リリイさん。もし不快に思ったら、絶対に言って下さいね?」

「いえ、そんなことは…」

「もしもの話です。絶対にそうならないとは言い切れませんから」


「誰かが傷ついたり、苦しむ姿を見るのは嫌だから。だから、ちゃんと言って欲しいです」と真面目な表情で伝えた。
あまり見ない蒼の表情に少し目を見開きながらも、(本当にお優しい方ですね…蒼さんは…)と、ふと笑みを零した。






「分かりました。ですが蒼さん」


「…はい」













「蒼さんといると、決して不快ではありません。それは本当です…だからあまり、マイナスに考えないで下さい」

「!」


困った表情で、けれど微笑むリリイの言葉に、目を見開くのと同時にドキンッと心揺らがす蒼。
再び救われたような気持ちになり、「ありがとうございます」と返して、病院を後にした。


































――――――――――……



リリイと病院の前で分かれ、ポツポツと…まるで地面を打つ雨と、周りを包み迷わせる霧の様にぼうっと歩く蒼。
学校に辿り着き、そのまま教室へと向かった。





「ただいまー…」



「あっ、おかえりー」

「遅かったな、どうしたんだ?」


虎雪と龍征が迎えてくれた。
心配そうに尋ねる龍征に、いけないいけないと気持ちを抑えて「ちょっと寄る所があったから…」と笑顔を作る蒼。
「大丈夫よ」と答える蒼を、今しがた来た真昼がチラッと様子を見ていた。
パチンと目が合い、真昼の元へ行こうとした時「蒼ー!ごめーんちょっといいかなー」と廊下から声が掛かった。
声のした方を見ると、廊下からコーラス部の先輩が駆け寄って蒼の手を掴んだ。





「昨日早退したでしょ?明日の打合せしたいから、今来てくれる?」

「あ、すみません…すぐ行きます!」


「あ、これ!買ってきた材料!とレシート!」「ちょっと借りるわね」と残し、二人は走り去っていく。
ポカンとする龍征と虎雪「あいつ、あんなに走って平気か…?」「蒼、大丈夫かな…」と心配していた。
前日は風邪で休んでいた、つまり病み上がりだ。
ぶり返すのではないかと気にしていたが、本人もいない中ボヤいていてもしょうがない。
とりあえず文化祭の準備を続けた。
そんな中、蒼がコーラス部の先輩と走り去るのを見届けた後、真昼は徐にケータイを取り出した。
今日の朝届いた、蒼からの連絡メールを開く。
だが、そこでふと気が付いた。




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