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□桜哉
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   #12.桜哉






「1−6でーす!喫茶店やってますー!」


蒼、現在クラスでの出し物宣伝中。
真昼のデザインした衣装を着て、お団子娘に強制的に被せられたうさ耳カチューシャを着けて回っていた。
ちょっと恥ずかしそうにあわあわする姿は誰もを魅了させ、どこでやってるの?と聞く者は数知れず…。
中には写メを撮らせて下さいと聞く者まで…男性も女性も後が絶たない。
勿論それ以外で声を掛ける者だっているのもまた事実…。





「ねえ君、この後時間空いてる?」
「俺らと遊びに行かない?」


「あ、あの…すみません。空いてないんです」




「えー?いーじゃん。じゃあ一緒に回ろーよ」
「そーだよ、俺らここの卒生なんだよねー」


「で、でも…」




絡まれている蒼。
困った顔で持っているチラシをきゅっと抱きしめる。
(どうしよ…)と考えていると、周りからくすくすと笑い声が聞こえた。
いち早く気付いた蒼は、キョロキョロと見回してみる。
やはり、こちらを見て笑っているのが分かる。
その事に絡んできた二人も気付き「何笑ってんだよ!」と声を荒げた。
…すると。





はら…

「!……布の切れ端…?」


小さな布の切れ端が落ちるのが見えた蒼。
何故こんなところで?そう思っていると、絡んできた二人も違和感に気付く。
「なんか、背中がスースーしねえ?」「…確かに」と言い合い、背中に目線をやった。




「うわっ、な、なんだこれ!?」
「服が切られてんじゃねーか!!」


颯爽と走り去っていた二人。
そんな二人の背中を見ると、ぎざぎざに三本線が入っていた。
「…誰がやったんだろう」辺りを見回してみても、誰かがやってくれた雰囲気は無い。
近くにいた他のクラスの人たちが蒼の側に来て「大丈夫?」と声を掛けてくれた。





「はい、大丈夫です」にこっ


「全く卒生だからってナンパするなんて!」
「怖がってたじゃない!チョーサイテー!」
「でもさっきの奴、通りかかっただけなのに何したんだろーな」

「そーだね。通りかかっただけなのに服が切れてたし」
「手品師かなあ」
「はあ!?」




「え?だ、誰か通りかかったんですか!?」


来てくれた人たちの会話に耳を傾けていた蒼。
聞き捨てならない言葉が出てきて、直ぐ様反応した。
「うん。なんか、狐の面を被ってたよ?」「私らと同い年くらい男子だったなあ」「制服じゃなかったから、来客だと思うけどな」三人の証言。
(もしかして…)と蒼はある人物を予想する。
そして二人の逃げていく方向をもう一度見やった。
「……」少し考えて、蒼はある場所を目指す。

そこは演劇部、余っていた長袖の白いティーシャツを二着貰い、もう一度さっきの所まで戻ってきた。
「あの、さっき服を切られたお二人の男性を見てないですか?」と声を掛けて、発見した人たちの言葉を頼りに走る蒼。
辿り着いたのは人があまり通らない廊下、「どうするよー」と二人困っていた所を、蒼は「あ、あの…」と声を掛けた。
「「っ!」」声のした方に目を向けると、びくつきながら蒼が距離を取って角に身体を隠しながらそこに立っていた。





「あ、あの…そのままでは、風邪を引いて、しまいっ…ますから」


先ほど貰ってきたティーシャツを角からずいっと出した。
さっき絡んできたのに、怖がりながらもこうして服を持ってきてくれた。
蒼の優しさに罪悪感を持った二人は、ゆっくりと蒼に近付いた。
そっとティーシャツを受け取ると、「ありがとう…」とお礼を告げた。





「さっきは、わりい。怖がらせちまって」
「久々だからさ、ちょっと俺ら浮かれてたわ。ごめんな?」


「!い、いえ!っあ、あの!もし宜しければ、クラスにいらして下さい。喫茶店やってますから」カサッ




チラシを渡す蒼。
「分かった、後で行くから」と、先ほどの脅すような笑みを全く感じさせないほど穏やかな笑顔で返した。
ほっとする蒼、思わず笑みを零すと、二人の頬は紅潮した。
…まるで天使のような微笑み……ふわふわと、白い羽が舞い降りているような背景が似合っている様だと。
走り去ろうとした所、蒼はくるりと振り返り「午後は、体育館で出し物がありますので、是非観にいらして下さいね」と残し、去って行った。
そして二人、同時に呟く…「「天使だ…」」と。




「良かった、怖い人達じゃなくて…」


思わず笑みを零す蒼。
だが助けてくれた者のことを思い出し、ゆっくりと走るスピードを緩めてスッと止まった。
狐の面、同い年くらいの男子、私服…三人の証言をもう一度頭の中でリピートさせた。
「ひょっとして…」きゅっとチラシを握りしめ、蒼は自分のクラスへ走って行った。





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