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□棺桶の男
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#14.棺桶の男
「キミはバカだね!」
真昼の携帯の向こうから聞こえる御国の声。
それをクロとテレビを観ながら聞いている蒼。
露木から渡されたお祭りのチラシをカサッと広げ見つめていた。
「蒼も行くのか…祭り」
「え?…うん、行ってみたいなあって。お祭りって行ったことないんだ」
「は?…その年になってか?」
「うん」
「はあ―――…向き合えねー…」
「えへへ…どんな屋台があるのかは、なんとなくわかるんだけどね〜」
蒼は、自分が記憶喪失であることを話していない。
勿論真昼にも。
親の顔など記憶があやふやで覚えておらず、どんな時間を過ごしたかも分からない。
もしかしたら祭りに行ったことがあるかもしれないし、行ったことがないのかもしれない。
それよりも、自分が何者なのか、はっきりとした理由も原因も無い。
リリイに励ましてもらったが、やはり不安は拭いきれないままだ。
「でも残念だな…せっかくチラシ貰ったのに、真昼くん一緒に行けないし…」
「まさか同一人物からもらってるとは、アイツも思わなかっただろ…」
「うん、私もびっくりした…」
しゅん…となる蒼。
それを横目で見るクロは、「なら…」と呟くように言葉を発した。
がその後すぐ、蒼がパッとクロにキラキラした瞳で向けた。
「クロ!お祭り一緒に行こう!」
「っ!?」
「せっかくだもん!クロと行きたいな♪」
「……」
「…あ、でも…真昼くん交通整理に行くし、あまり離れ過ぎちゃダメなんだものね…」しゅん…
「…別に、大丈夫だろ…そんなに離れなきゃ…」
「…ほんとに?」
「それに、アイツにくっついてるつもりねーし…祭りを満喫するつもりだったからな」キラーン
「クロ…」
「……一緒に、行くんだろ…?」
「…うん、一緒に行く♪」
再度しゅん…と落ち込んでしまったが、クロの言葉に子供のような無邪気な笑顔を向ける蒼。
ちらりと横目で見ては、ポンポンッと頭を撫でてあげるクロ。
「楽しみだなー♪」チラシを口元に持ってきてウキウキと楽しそうにしていた。
「祭りか…人の多いところでは特に周囲に気を配ってね?
蒼ちゃんのこともあるし、その副会長さんのこともそうだけど…」
ジェジェに撃たれ、砂へと姿を変えていく下位吸血鬼(サブクラス)。
「疑わしきは罰しちゃえば?」
もし蒼がその場にいたら、以前の時と同じように悲しんでいたかもしれない。
「大体何事も騙されるほうが悪いんだよねーあっはっは❤オレのジェジェもそうだけどさあ」
ガシャ!
「この仕事やってくれたら血飲ませてあげるーなんて適当な話簡単に信じちゃってー。
だーれが飲ますかジェジェざまァァ」
『きゃ―――』
ドン ドンドン
『撃―――た―――れ―――る―――あっはっはっ、じゃっまたね〜〜〜』
「……この人はどうしてこう意地が悪い…?」
そんな会話と、電話の向こうの出来事を聞いていた蒼は、にこにこしながら「楽しそうだねー」と発言をしていた。
いやいや楽しくないだろうと、誰もが突っ込みたくなる発言だ。
クロも横目で見ながら汗を垂らしている。
「御国さんとジェジェさん、相変わらず仲良しさんだね」
「いやちげーだろ、どー考えても」
「アイツも大変だなー…」
「つか、わりぃな蒼。祭り一緒に行けなくて」
「ううん、大丈夫よ。交通整理頑張ってね」
「おう。蒼も、人ごみは気を付けろよ?」
「はーい」
「あと、かき氷食い過ぎんなよ?」
「……はーい」
「おい、その間は何だ?いいか?食い過ぎんなよ?腹壊すから」
「はあ――…お前はオカンか…」