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□棺桶の男
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「あ、あの…」


「ん、美人女将もいいな…いや、この身長だと看板娘か?」

「へ?」


顎に指を添え、何かを考えているような仕草。
いきなりの発言に、蒼も思わず白目を向いてしまう。
それでもなんとか白目から元に戻し、「あ、あの」と声を掛けた。




「何かお困りだったのでは?」


「…あー、そうだった。探し物してんだけど…」

「探し物?」

「おー。こんぐらいのでっけー黒い箱なんだけど…」

「箱…どこで忘れたとかは…?」

「それが覚えてねーんだ」



大体その人物と同じぐらいの高さらしい。
しかしそのぐらい大きいものなら、気付くものだが…。
う〜ん…と考え、蒼は「もしかしたら…」と呟いた。




「本部とかに届けられてるのではないでしょうか?」

「本部?」

「落とし物見付けた方が、拾って下さって本部に届けてるかもしれないですよ?」

「あー…」

「あっ。あのはっぴを着てる方に聞いてみてはいかがでしょう?」

「おう、サンキュー」

「どう致しまして」


背を向け、はっぴを着ている女性の元へ向かおうとした時、ピタッと動きを止めた。
そしてくるりと蒼の方に顔を向ける。







「アンタ、一人なら気を付けろよ?なんか変なこと起こるらしいから」

「え?……あ、はい…」


その人物はそれだけを言い残し、その場を去った。
茫然とする蒼。
去っていく背中を見送り、蒼もその場を後にした。
ほくほくのじゃがバターに息を吹きかけ、冷ましながら木陰で食べる蒼。
先ほどの言葉が気になり、少しぼうっとしていた。





(…変なこと……何か起こるのかな…?)


割り箸を口に含んだまま動かない。
…だが、そうすることが出来たのも束の間。










ドッ!!


突然の爆発が、蒼の意識を覚醒させた。
周りの者たちも騒ぎ始める。
どこかで銀色のアタッシュケースが爆発したらしいとのこと。
先ほどの人物が言ってた“変なこと”というのは、このことなんだろうか。
あわあわとし始める蒼の視界に、何かが空へ軽々とジャンプしていくのが見えた。





「…あれ、もしかして……真昼くんとクロ?」


蒼はカラコロと動きにくい浴衣で何とか追いかけようとした。
だが向こうの動きは早く、またよく分からない所に着地した為見失ってしまった。




「…あ、あれ…?どこ行ったんだろ…」














そしてある所では、両手を広げ、不気味な笑いが暗闇を包んでいる姿…。



「…若!!見ておられますか若…!!

 我らの“葬儀”開演でございます!!




それに答えるようにコンと鳴らす、黒き姿…。




「あはっ。

 さあさあ世界 あーそびーましょ―――?




















20:30――――…


花火が上がった。
蒼も思わず足を止め、打ち上がる花火を見上げた。
色とりどりに咲き誇り、だが一瞬で散りばめていく。
そんな姿を目にし、蒼は目を逸らすことが出来ずにいた。
いつしか、一筋の涙が蒼の頬を伝い、自分自身でも何故涙を流したのか、分からずにいた。






「…っ…早く、真昼くんたちの所に行かなきゃ…!」


乱暴に涙を拭い取り、改めて走る蒼。
こっち側だろうと、勘で前へ走って行ったが、時既に遅し。
真昼たちは騒ぎを避けてその場から既に離れていた。











     ―――――美しくも儚く散る 一輪の華…―――――





     ―――――初めて見た時も 泣いてしまったな…―――――









     ―――――『世の中には こんなに美しく そして一瞬で消えゆく』―――――





     ―――――『こんなにも心揺らがす 華があるものなのか…』 と…―――――



















     ―――――…やはり 血は争えぬ…か…―――――







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