Word
□言えないこと
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――――――――――……
―――――『今の世を生きる人の子は、こんなにも生意気なものなのか』―――――
―――――『悪かったね、生意気で。てか、名前知ってるんだから名前で呼んでよ』―――――
―――――『…ふ……まぁでも、そんな人の子とこうしてチェスをするのも、悪くないものだな』―――――
―――――『でしょ?…いや、だから』―――――
―――――『ほら、チェックメイトだ』―――――
―――――『あああ―――っ!!』―――――
どこかの部屋、とても広くて、絵に描いたような整った場所。
おしゃれなテーブル、その上に置かれたチェス、挟んで座る子供と、誰か…。
一人の少年と、反対側には…。
(……F、さん…?何で、Fさんが…?)
少年の目の前に座っていたのは、雪原の世界で出会うFだった。
チェスを嗜む光景を、ふわふわ浮かぶ…まるで幽霊にでもなったように見つめていた。
少年も楽しそう…姿が見えない声の持ち主も、楽しそうに話している。
光景はフェードアウトされ、別の光景が映った。
『アールグレイとは、ベルガモットで柑橘系の香りをつけた紅茶で、フレーバーティーの一種だ』
『ふ〜ん』
『アールグレイの“グレイ”は、1830年代のイギリス首相・第二代グレイ伯チャールズ・グレイに由来する』
『ああ、紅茶好きでも有名なんだっけ』
『その通りだ』
『お姉さんも好きだよね。紅茶』
『うむ。紅茶もだが、ハーブティーにも目はないぞ?』
『は?紅茶もハーブティーも同じでしょ?使ってるものが違うだけで』
『…やはり分かっておらぬな』パチンッ
指鳴らしの音、宙からティーセットが現れた。
そんな現状に目を見開く少年。
目の前でポットがカップへ勝手に何かを注いでいる。
ゆっくりと目の前にカチャンと着き、少年はポカンとしているだけだ。
―――――『良い女は、良いティーセットを一つ持っているものだ』―――――
蒼も、目の前の現状に驚いている。
空中からティーセットが出てきて、誰が注いでいるわけでもなくポットがカップへ勝手に注ぎ込んでいるのだ。
現実では有り得ない光景、だがその少年からしたら、その光景を目の当たりにされて、茫然とするのも無理はないだろう。
まるで“魔法”を使っているようで…。
そしてまたフェードアウトされていく。
だが次の光景は、部屋も暗く、何かの惨劇があったような雰囲気だった。
そこにあの少年と、背の高い誰かが隣に立っていた。
ハッと気付く蒼は、目の前の男の子に手を伸ばす。
必死な勢いで、今すぐにでも抱きしめたいと思いながら…。
――――――――――……
「っは!………っはぁ…」
目が覚めた蒼は、すっと身体を起こした。
頭に手を置き、視た光景を思い出す。
ドアの隙間から映し出された、少年の…痛々しい表情。
それが蒼の心をズキンと突き刺すようなものだった。
「……誰なんだろ、あの子…何で、あんな表情(かお)を…それに、Fさんがあそこに…」
そう呟いた後、すぅすぅと寝息が微かに聞こえた。
隣でロッカが眠っている。
ほっとしたようにふと笑みを零し、さらさらと頭を撫でてあげた。
(…そういえば、今何時だろう?)鞄に入れていた携帯を手に取りボタンを押すと、夜の9時を回っていた。
「そったら眠っちゃってたんだ…夢では、長い時間が経っているようには感じられなかったのに…」
と同時に、メールが二件表示されている。
一件目は虎雪、もう一件は真昼からだった。
真昼からは、今ファミレスで御園や鉄たちと居るという連絡。
そして虎雪からのメール、日にちが過ぎていて返信をしなかったことに申し訳ないと思う気持ちに駆られながら、その内容を読んだ。
「……え…?な…に?…これ…どういうこと……っ」
内容に驚愕し、蒼は部屋を飛び出した。
慌てて出て行った蒼の背中を、ロッカは横目でじっと見つめながら…。
だがロッカの瞼は、行ってやらなくちゃという思いに抵抗するように、身体を動かす事もままならず、ゆっくりと閉じていった。
一方、蒼は必死に走り続けていた。
真っ暗な道の中、一つの場所へひたすらに…。
「あっ!蒼!」「真昼くん!クロ!」辿り着いた先で真昼らと鉢合わせした。
「嘘…だろ。何だよ、これ…」ふらっ…
「めちゃくちゃ…何で……な、んで…」ふるふる…
【KEEP OUT 立入禁止】のテープが何重にも重なっている。
その先には、この間まで通っていた自分達の学校。
それが跡形も無く壊されていたのだ。
…全ては、花火の時に銀色のアタッシュケースが爆発した時と同じ時刻。
13ヶ所が一斉に爆発された、その内の一か所が東高だった。
『夏休みは もう』 『始まってる』―――…
…笑い声が 聞こえる 気がする――――
「…椿が…やったのか…?なんのために…」
「…っ何で…こんなことを……っ」
椿の不気味な笑みが、真昼と蒼の脳裏に浮かび上がる。
真昼は恐怖に怯えたような瞳、蒼もまた恐怖や不安に包まれ涙を浮かべていた。
「この前の祭りでの事件と…関係があるのか?何の目的で…」
「クロ」と名前を呼び、椿の目的に心当たりがないかを尋ねる真昼。
昔何かあったとか…それと蒼も。
蒼は覚えてないようだったが、椿の方は明らかに知っているようだった。
「椿は、蒼のこと知ってるようだったけど…本当に、覚えてねえの?」――――…。
だが待てど、二人からの返答は無かった。
「クロ?…蒼?」
するとその時、バチッと何かが真昼の中を走った。
その衝撃で真昼は地面に倒れてしまう。
背後には、二人組の影が映った。
クロに鎖を繋げ、蒼を抱えているショートの女性と、手にスタンガンを持つ女性。
「…あれ?…ちょ―――っと強かったかな―――…?」