Word

□知ることと知らないこと
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「……。
        ・・
 君達は…やけにそれを信頼しているようですが、
 ・・
 それは君達の友達じゃない





「…?つ、露木…せん、ぱい?」


「吸血鬼だ 人を殺し 人の命を吸う」

「露木先輩…?」

「吸血鬼なんて…壊すしかない。本当は、椿以外だって…」


真昼も蒼も、露木の表情に困惑する。
吸血鬼というものに対して、恨みを持つ、そんな表情に、蒼は胸が痛んだ。
いつの間にか、手足の震えも止まっている。
先に口を開いたのは、真昼だった。




「…気になってたんだ。御国さんも…露木先輩も同じだった。

 吸血鬼を“壊す”っていう。“殺す”とは一度も言わないんだ…」



「あ…」

蒼も真昼の言葉に気付いた。
確かに、そう言ったことはない。
人じゃないと思ってる?道具だと思ってる?
痛んだ胸に、更に傷を作られたような気分になった。






「先輩は、吸血鬼が家でごろごろしながらゲームしてる様子を見たことないだろ。

 吸血鬼が…『嘘をついてごめん』って泣いて後悔したり…。

 本当にめんどくさがりなニート吸血鬼が、会ったばっかりの人間を守るために戦ってくれたりもした!

 良い面をたくさん見たんだ。

 みんな 俺の仲間だよ」



にっと笑いながらクロと目を合わせる真昼。
そんな真昼の屈託ない笑顔を見て、蒼は心動かされた。
眉をひそめ、前へ顔を戻した。
下に俯かせていた顔を上げて、露木と再び目を合わせる。
先程と違うのは、睨むような瞳じゃなく、真っ直ぐと見据えて…。





「わ、私も……私も、たくさん見ました!」

「!」



「初めて会ったばかりで、クロが危ないところを助けてくれた。

 いつも、桜哉くんがお話して楽しませてくれた。

 椿さんが、倒れたところをずっと側にいてくれた。

 心配してくれたり、笑いかけてくれたり、あったかかった…。

 真昼くんは仲間だって言った。私もそう思う…でもそれだけじゃない。

 私はみんなのこと 家族みたいに大好きなんです」



真剣な蒼の瞳。
「つ、露木先輩も…」と始める蒼に、しかめっ面に変わる露木。
とりあえず耳を傾けた。







「何かに困ってるなら、力になりたい。出来ることは少ないかもしれないけれど…」

蒼の言葉に、真昼も続けて「そうだよ」と乗せて言った。






「先輩も…普通に困ってるって、話してくれたらよかった。

 人でも吸血鬼でも、守りたいとか助けたいって思うことに、理由はないから」



「…C3が弱体化していると知れれば、人間と人外とのバランスが崩れます。

 椿たちに大打撃を与えられてしまったから助けてくれと、そう君達に言ったとして、

 他の吸血鬼の誰かがC3を襲撃しないと保証できますか?」



力が抜けたがために、「…そうそう見せられるものではないんですよ…弱みというのは…」壁に身体を預け、ずる…と落ちていく。
眼鏡も一緒にずり落ちたところを見て、蒼も力が抜けたように両手を下ろした。




「吸血鬼とかC3とかの…事情は俺にはよくわかんないけど

 ただシンプルにっ、傷付く人が出ないようにまるごと守るだけだ!



真昼の言葉に、露木は少し驚いたような表情を見せた。
露木の目の前で、真昼とクロがわいわいと話をしている様子が映っている。
(吸血鬼が…変わる?吸血鬼がC3を、守る…?)信じられない言葉を、胸の内に響かせる露木。
クロが猫の姿に変わり、それを「かわいいにゃー」と溶接面を被っている女性が現れて「誰!?」と驚いていた。
そんな場面を見て蒼もふと笑みを零した。







「露木先輩」

「…はい?」


「今すぐにとは言いません。けれど、いつか真昼くんのことは信じてあげてください。

 いっぱい悩んで、いっぱい考えることはこれからも増えていくけど、あんな真っ直ぐな人…きっと他にいないから」




「……」


蒼の言葉を耳にしながら、眼鏡を掛け直す。
更に奥では溶接面を被っている女性が黒猫姿のクロをわしゃっと撫でている。
「ちょ…それ、吸血鬼」と呟きながら、断念した様な表情でカードキーを読み取り画面に当てた。




「…こちらの常識やルールは、通用しそうにないんですね…」

すいんっと壁に線が現れ、いきなり壁が開いた。




「わっ、カベが開いたっ」

「エレベータです。どうぞ1階まで上がってください」

「隠しエレベータ…すごい」

「すごいか…?」





「あの祭りの日、C3として君達に接触する予定でした。

    ・・・・・・
 でも…できなかった」




「できなかった?しなかったのではなくて、ですか?」




「あの日あの場所に、傲慢の真祖(サーヴァンプ)が来るとは思わなかったんです。

 傲慢の真祖(サーヴァンプ)は下位(サブクラス)の数が多いですから…その情報網で椿達の動向を知ったのかもしれません。

 傲慢の真祖(サーヴァンプ)は、我々C3に対して否定的です。

 C3の弱体化を知られて付け込まれでもしたら困る…だから動けなかった」




「みんな…椿を止めたいだけなのに、お互いに疑いあって動けなくなるのはなんか嫌だな…」


「っ……」

蒼はきゅっと胸の辺りを握った。
“椿”そう聞くと胸が締め付けられるような感じ、今でも変わらず蒼の表情を曇らせる。
(何でこんなことをするのだろう…)ずっと疑問に思っていることを考えても、答えなど出なかった。





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