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□カウントダウン
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   #18.カウントダウン









――――――――――……




(……ここは…どこ…?)


ザアアアッ―――――…




強い雨が、地面を打ちつけるように降っている。
にも関わらず、蒼は濡れている気配が無い。
まるで幽体離脱したように、ふわふわと宙を浮いているようだ。
きょろきょろと辺りを見回すと、大きな屋敷が映った。
蒼はそのお屋敷を、どこかで見たことがあるような気がしてならなかった。






(……なんだろ…どこかで……)


そう思いながら、身体は段々と地面にゆっくり降りていく。
すると、大きな門が見えた。
…誰かが立っている。
誰かが、誰かと話している…一人は傘を差して、誰かと話している。
傘を差しているのは少年らしき姿…それともう一つ……。





『お姉さん、ウチに何か用?』


(あっ……この男の子…!)






『そんな格好で人ん家の前にいるんだ。不審者扱いされても、文句は言えないよ?』


蒼は思い出したのだ。
御国とお茶をしたその日の夜、夢を視た。
絵に描いたような、大きくておしゃれな部屋で、誰かとチェスをし、お茶をしていた。
そして夢の最後に、悲痛な表情を見せた、あの少年本人だったのだ。






『……そなた、私が視えるのか…?』


『はあ?視えなきゃ、こうして話しかけないだろ?お姉さんバカなの?』

『……ふっ…20年も人生を満たしていない人の子に、バカ呼ばわりされようとは…私も堕ちたものだ』





(…あれ?この声、Fさん…?)


その夜、夢みていた時と同じように…Fが雨に濡れてそこに立っていた。
話している時は、一度も御国と会っていたなどと言わなかった。
だが、御国の名前が出た時、どこか悲しげな、どこか切なさが滲んでいるような表情だったのを、蒼は覚えている。







『…人の子に視えているということは、今私は…現実世界に迷い込んだのか』


ふと屋敷を見上げるF。
理想郷で会話する時と全く同じ姿でそこにいる。
黒いマントで身体をまとい、腰辺りまである水色がかった銀色のウェーブを帯びた髪。
透き通るような白い肌に、大理石のような白がかった灰色の瞳を持つ綺麗な女性。
横顔からは、どこか愁いを帯びた表情…少年は思わず見惚れてしまっていた。
するとFは、ふと少年の方を見やる。







『すまないな、人の子よ。不快な思いをさせた…』


『っ別に…そんな事言ってないじゃん』

『……そうか…私はもう去る。さらばだ、人の子よ…』





『あっ、ちょっと待ってよ』


くるりと向き、ゆらりと去っていこうとするFを、少年は止めた。
『行くとこないんでしょ?』と声を掛けると、Fは少年の方に顔を向ける。
まるでこの後何を言われるか、予測しているように…。





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