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□カウントダウン
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『…雨、止むまで雨宿りしていけば?』


『……』


少し沈黙を埋めると、Fは身体も一緒に少年の方に向け『…良いのか?』と問うた。
『こんな素性も知らぬ未亡人を、自分の家に入れても…』ふと妖しい笑みを零すF。
少年は怯むことなく『その時は、うちのメイドや“ボディーガード”が黙っちゃいないよ』と返した。








(…?…“ボディーガード”?)



『ふ……そうか…。なら、お言葉に甘えるとしよう』

『…最初から素直にそう言えば良いのに。お姉さん、やっぱりバカなの?』

『そんな子供じみた挑発には乗らぬ』

『っ!…なにそれ、こっちが親切に雨宿りしてけばって言ってるのに。失礼だと思うけど?』

『ふふっ…やはり子供だな』


門を開け、入っていく少年とF。
蒼は地面に足を着けた。
とは言っても、身体が透けている状態のようなものの為、地面の上に立っているような感覚はないが…。
屋敷の奥へと姿を消したその場所から、蒼はただただ茫然と見ているしかなかった。




(Fさんの声…どこか楽しそう。だけど……どこか、悲しそう…)







何でかな…

まるで、“この後何が起こるか予想している”みたいな…

それを“知っている”ような…


だから、お邪魔した?

あの男の子の、側にいる為に…







あれ…?

何で私、確信も根拠も無いのに…




こんな風に思えるんだろ…








蒼の視界は白くフェードアウトしていく。
真っさらなキャンパスへめくられたように…頭の中も、思考回路も、何もかもが消えた。

























――――――――――……




「……んっ………あ…あれ…?」


蒼は目を覚ました。
映ったのは、自分の部屋の天井。
視界がぼやけたまま隣から聞こえる寝息の方に顔を向ける。
すー…すー…綺麗で可愛らしい寝顔のロッカを見て、ふと笑みが零れた。
身体を起こし、近くに置いてある目覚まし時計を見ると、時間は既にお昼過ぎを指していた。




「…もうお昼過ぎてる。疲れてたのかな…それとも……」


蒼は夢の出来事を思い出す。
一人の少年と、F。
一つ一つの発した言葉の意味を、何故こう思うとはっきり決められるのだろう…と。
戸惑いを取る事が出来ないまま、蒼はベッドから立ち上がりカーテンを開けた。
目の前に広がる、絵に描いたような青空が、蒼の心を穏やかにしていく。
眉間に寄っていたシワも、次第に解けていった。





「…〜〜っんん〜〜……」

ロッカも目を覚ましたらしく、声が聞こえた蒼はロッカに顔を向けた。
「ふわあ〜〜〜っ…」手を伸ばし、大きな欠伸をするロッカを見て、また笑みを浮かべる。
家族が出来たような感覚は、まだ蒼にはどこかくすぐったい気持ちが残っていた。




「おはよう、ロッカ」

「ん〜?…ああ、おはよう…」

「ふふっ、もうお昼過ぎだよ?お昼ご飯作ろうか?」

「…いや、いい」

「じゃあもう少し寝てる?」

「……いや、起きる」

「…そう」


蒼は部屋着のまま部屋を出て行き、リビングへ向かった。
中へ入り、テーブルの上に置いてあったあるものと目が合う。
そのあるものに近付き、手に取った。
それは、ロッカと初めて対面した時に真昼が使っていたコップ。
思い出すのは、真昼が自分を強く抱きしめたこと。
その後の、無理に笑顔を見せたような、違和感のある表情。
顔をほんのり赤くしながらも、思い悩む表情が表れる。






「…真昼くん、一体どうしたんだろ……」


そんな蒼の姿を「……」ただジッとリビングのドアの隙間から見つめるロッカ。
蒼の思い悩む表情をつらそうに見て、ロッカは行動に移した。




「おい」

「っ!…あ、ロッカ」


ハッと気付いた蒼は、声を掛けたロッカに気付く。
コップを置く蒼の近くに歩み寄ってきたロッカに、「どうしたの?」と声を掛けた。
ジッと見つめるロッカは両手を伸ばし、包み込むようにそっと蒼の手を握った。
ロッカの行動に蒼は優しく微笑んで「なあに?」と問い掛ける。
「……っ」その微笑みに懐かしい何かが重なって見えたロッカは、一瞬悲痛な表情を浮かばせた。
が、隠すように下を向き、握っていた蒼の手を自分の額にコツン…と当てるロッカ。




「…ロッカ?」

「……いや…」


下に向けていた顔を上に上げ、蒼と目が合うと困ったように笑顔を見せた。
「お前さんが…」ぽそっ…と言うと「ん?」と聞き返してくる。





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