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□有栖院家にようこそ
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一方で、真昼とヒューは卓球勝負をしていた。
奥で鉄が毛布やらシーツやら、せっせと物を運んでいる。
カコンカコンと、卓球独特の音が広間に響き渡っていた。
カコッ カコッ カコ――ンッ
「あ…のなっ。俺達今っ、遊んでいる場合じゃ…っ」カコン!
「甘いのじゃ!!」カコォォォン
「ぎゃ――――っ。チビだからって台に乗るのは反則じゃねぇ!?」
玉は真昼のラケットをすり抜けるように打ちつけられた。
「はいもうヒューの勝ちでいいから卓球終わり!!」と無理矢理に終わらせる真昼。
「次はビリヤードじゃ!!」と次の勝負を申し込むヒューだったが、「やんねーよ!!」とキッパリ断った。
そこへ、ほかほかと湯煙を立てながらフルーツ牛乳を飲んでいる、風呂上がりのクロと蒼が戻って来た。
「フロ上がりはフルーツ牛乳にかぎる…」ホカホカ
「アイスもなかなか乙なものですよ」ホカホカ
「あっクロ!!お前もくつろいでんじゃね――!!お前ら――!!」
「おっ、蒼!我が輩は卓球で勝利したぞ!」
蒼が来たことで、ヒューの顔がパァッと明るくなり、ぴょんと飛びついてきた。
勿論、飛びついてくるヒューを受け止めない筈が無く、蒼はヒューを抱き上げて頭を撫でてあげる。
「それは良かったね〜」よしよし
「良くない!!遊びに来たんじゃないんだぞっ!?蒼も甘やかすな!」
勿論、真昼が騒がない筈が無く。
「ピィ〜…(うるせ〜…)」と小さく呟くロッカが、呟いてすぐ眠ったことなど露知らず…。
大広間の前には【サーヴァンプ御一行様集会所】と書かれ、一通り収まった後、全員いつもの服装に着替えてミーティングを開始した。
「ここに、サーヴァンプ7人に集まってもらおう!」
制服に着替え、そう切り出す真昼。
近くで蒼も鉄も聞いている。
「拠点みたいになるとわかりやすくていいと思うんだ。誰か一人でもやられたら状況が悪くなるんだし」
「確かに。集まってた方が安心するし、心強いものね」
「ああ。…ってなわけだから、お泊まり会みたいなノリやめろ!!そこの吸血鬼2人!!」
わいわいとゲームをするクロとヒュー。
真昼のツッコミに「あ?」と、だらんと反応するクロ、一方でヒューは気にせず「ポカモン交換じゃ!!」と楽しそうだ。
そんな二人を、蒼は見ながらくすくすと微笑ましそうに笑みを零していた。
因みにロッカは座布団の上にくるまり、蒼の隣ですやすやと眠っている。
広間に集まった時に説明したのだ。
「にしても驚いたな。ロッカって、動物はその姿なんだ。真っ白なんて珍しいな」
「うん。かわいぃよね♪シマエナガっていう小鳥の姿なんだって」
「ていうか、クロ達と同じサーヴァンプなんだよな」
「うん。けど、ロッカは全く同じわけじゃないって言ってた。血も飲まないみたいだし」
「本来の姿が、クロ達みたいな人間じゃなくて…動物って時点でもう違うしな」
「我が輩も、そのような奴初めて見たぞ。我が輩達と同じじゃが異なるとは奇怪な…」
「いや、お前ら吸血鬼だって充分奇怪だぞ?」
「…でも、本人に聞こうにも、今は眠っているから…」
「まだ、力が足りないんだな…」
「…うん」
優しく見つめながら、蒼はロッカの頭を優しく撫でた。
皆が言った言葉を思い出しながら、蒼は思う…。
結局、詳しいことは全て教えてもらっていない。
ロッカのことも、知っているであろう昔の自分のことも、サーヴァンプのことも…。
少し表情が沈む中、真昼は鉄に問い掛けた。
「でも鉄の実家とはいえホントに良かったのかな?」
「ん?」
「こんな広い部屋借りちゃってさ、客間だろ?」
「あ―――、この大部屋あんま使われねーから。自分らで掃除とかするならいいって」
「素敵な部屋だよね」
「あと最近…すぐ近くにスーパー銭湯できちまってよ。色々厳しーんだ…コウモリと遊ぼうフェアとかやってんだけど…」
「そのフェアはどうだろう…」
「鉄くんも大変だね…」
落ち込み気味の鉄。
時代が進むにつれ、厳しくなるのもまた事実。
時間が経つにつれ、椿達の行動が大きくなっているのも、また事実なのだ。
「椿達の動きもかなり大きくなってきてるし、こっちも早く人数集めて、対峙できる状態にしなきゃいけないのに」
「……っ」
椿という名を聞き、蒼はまたも沈んだ表情を浮かべた。
結局、椿のことも何も知らない…いや、思い出せていない。
現状を更に追い込むかのように、御国にも、御園にも電話が繋がらない状態。
他のサーヴァンプとの連絡手段もない。
手の出しようがないのだ。
「SNS落ちてっしなー…ネット社会に依存が進む脆弱な現代社会…」ごろにゃん
「何言ってんだお前。猫が言うな」
吸血鬼達のSNSが、未だ復旧しない…。
C3、露木はどうしたのかと心配になる真昼。
そんな思いを余所に、鉄は「あ」と声を上げた。