Word

□安全な庭
2ページ/8ページ






「はぁ、はぁ…。す…すまない。興奮してついメガネを割ってしまった…」

「メガネって気合とかで割れるものでしたっけ!?」


メガネが割れてあたふたしている間、真昼は二人の息子の様子を思い浮かべた。
そしてこの現状、似てる…としか思う他なかった。





(この人…確かにあの二人の父親だな…)


一方で、その一部始終を見ていた蒼もくすくすと笑いながら似てるなぁ…と思っていた。
蒼の様子に気付いた鉄は「どうしたんだ?」と問いかけてみると、「え?あ、うん」と言ってまたくすくすと笑った。




「御園くんのお父さんだなって思って…」


「?何言ってんだ?父親だろ?さっき言ってたじゃん」

「うん、そうなんだけど…改めて分かったというか、再認識、かな?」

「なるほど」


隣からすっとメガネのスペアを渡している、秘書の宇佐美三月が紹介されているところを見つめた。
何かを思い、蒼の表情はさっきの笑みとは一変、御門に引っかかることがあり、影を落とす。
それは、御門に対する違和感だった。
初めて会った筈なのに、初めて会った気がしない。
デジャヴなのだろうかと思い記憶を巡らせても、何も思い出せない。
寧ろ耳鳴りが響き、蒼はキーンッと音が走ったことに目をぎゅっと閉じた。
肩も上がり、普通じゃない様子に鉄が「大丈夫か?蒼」と声を掛けた。




「どっか痛いのか?」

「え…あ、ううん。大丈夫よ鉄くん」

「そうか?」

「うん、ありがとうね」


ぎこちない笑みを残しながらも、もう一度御門達の方に顔を向けた。
すると子供たちが寂しそうに裾を掴んで、寂しそうにしているのが見受けられた。


「だんなさま、遊べないのー?」
「うん…すまないね。お仕事だ。また今度な」
「え―――トランプ…」





(優しい顔…皆のお父様みたい)


ふと蒼は笑みを零した。
「……」蒼もどこか、寂しそうな表情を交えさせながら…。
そんな中、真昼は御門と子供たちの姿を見て考えていた。




(顔も雰囲気も…御国さんとよく似てる気がする。なのに…なんでだ?

 御国さんなんていないみたいに…)


「城田真昼くん…と言ったね」
先程の子供たちの様子を思い出している中、御門はそう問い掛けた。





「吸血鬼と人の共存は可能だと思うかい?」






ドクンッ…

(っ……共、存…?…なんだろ、何か…嫌な感じ…)




「え…っと…?思う…というか、できたらいいのにって思ってました。…でも、

 この家のみんなを見て…できるんだって思いました」


真昼の言葉に、御門は意味有り気な笑みを浮かべている。
まるで…“決まり事”をしているからこそ、それが出来ているのだと…。
それはすぐに、御門の口から発せられる。
一方で蒼は、その笑みにどこか寒気を覚えながら“共存”という単語に敏感に反応した。




「そうだね。しかしね、他者との共存を果たすにはルールが必要だ」

「ルール?その、ルールって…何ですか?」












“何者も我々に干渉しない” その上で我々は、共存を可能にしてきた」





「干渉、しない…」

「?…蒼?」


蒼の脳裏に何かがよみがえろうとしていた。
“干渉しない”たったその一言が、蒼の内の何かに引っ掛かる。
きゅっと顔を歪ませる蒼に、先程の耳鳴りが更に表情を歪ませ、隣で気に掛ける鉄は声を掛けた。
「大丈夫か?蒼。さっきから変だぜ?」「…う、うん、大丈夫。大丈夫よ」曖昧な笑顔で返す蒼。
それでも引っ掛かる気持ちはそのまま動かない。
御門は言葉を続けた。




「外から別の価値観を持ち込まれると、我々の“ルール”が脅かされる。

 不穏分子は排除したい。


 君、御園のためを思うならどうか、干渉しないでくれないか





(何だろ…この人の言葉。しっくりくる…それに、どこか…“怯え”があるような…)


御門の言葉に、納得できるような感情と、御門自身の感情を感じ取る蒼。
でも、何故こんな風に感じ取れるのだろう…と、蒼は疑問を感じ始めた。
普段は無意識の内にそう感じ取り、自分に何か出来ることはないかと模索し、尽くしてきた。
何故疑問を感じたのか、何故確信めいた感情を読み取れるのか、その答えはまだ知る由もなく…。

そんなことを考えている間に、真昼ははっきりと御門に意見を述べた。




御園本人がそう言うなら帰ります!だから、御園に会わせて下さい」


真昼の真っ直ぐな言葉に、御門は眉間にシワを寄せる。
回りくどいことをさせて中へ招き入れた洞堂は、後ろでやってしまった…という表情でいる。
「……」少し沈黙すると、御門は言った。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ