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□魅せられた光景
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   #21.魅せられた光景





   ―――――『この手は、苦しんでいる誰かを救う手だね…』―――――




『……蒼…?』





















――――――――――……




夢の中で聞こえた、懐かしい声。
そんな声の持ち主の名前を呼び、真昼は目が覚めた。




「あれ…?俺、いつの間に寝ちゃったんだろ…」


蒼が眠りにつき、それから一向に目が覚めないまま…。
真昼は蒼の手を強く握りしめたまま眠ってしまっていた。
目が覚めたのは朝の7時、真昼の上には毛布が掛かっていた。




「?…毛布…」


むくっと起き上がり、毛布の存在にようやく気付いた真昼は手を掛ける。
誰が掛けてくれたんだろう…そんな思いが過ると、疑問の答えを返してくれる者がそこにいた。






「傲慢の主人(イヴ)ば掛けていったきに」



少年姿のロッカが、蒼を挟んで反対側の方に座っていた。
腕を組み、あぐらをかいて、でん!と偉そうな風格を見せている。
「ロッカ…」と呼ぶと「気安う呼ぶな」と即座に突っ込んだ。





「…蒼、まだ目を覚まさないのか…」


「見りゃあ分かるじゃろ。覚ました気配ものおし」

「……蒼…」


真昼はきゅっと唇を噛み締めながら、蒼の手をまた強く握った。
そんな姿をただじっと見守っているロッカ。
「大丈夫…大丈夫、だよな…きっと、目を覚ましてくれるよな…」自分を安心させるように、真昼はそう呟いた。
ふぅ…と息をつくロッカは蒼に手を伸ばし、さらさらと蒼の頭を撫でた。




「……ずっと…」


「え?」








「…ずっと、握ってた。こやつの手ば…離さないで…強く握ってた」


「…!お、俺…早く蒼に、目を覚ましてほしくて…!」


自分の気付かない所で見られ、動揺を隠せない真昼。
けれど、それでも蒼を想ってくれて、目を覚ましてほしいと願っていたのは事実。
ロッカは感謝と同時に、人間の痛い部分を真昼に突いた。




「こやつを心配して、側にいてくれたのは感謝するぜよ。きっとこの手ば、こやつの救いになる」


「!…ロッカ…」







「…けど同時に、安心したいからって気持ちばあるんじゃながか?」




「なっ…!」


「こやつば目を覚ませば異常無いと判断できる。と同時におまん自身安心できると、ほがな気持ちを求めてる。違うがか?」




「っ!……っ…」


「別に気に病むことはのおし。それが人間やきな」

「な、何なんだよ、一体…」

「別に。ほがなことに興味ねェだけぜよ」



それからロッカは、この感情に関して何も言わなくなった。
真昼もさっぱり分からないまま。
ふと蒼に目をやり、やはり一向に目を覚ます気配が無く、不安がより高まる。
すると「なあ、ロッカ」と呼ぶと、先ほどよりは静かに「気安う呼ぶな…」と返した。




「…お前、蒼のことよく知ってるみたいだし…蒼がこんな風になった原因、知ってるんじゃないのか?」


「………」

「もし知ってたら、直ぐに目を覚ます方法とかないのか?」

「…!」


ロッカは意外だと思った。
原因を聞きだすのだとばかり思っていたが、目を覚ます方法が知りたいと言った真昼の言葉に少し心が動いたのだ。
と言っても、本当に微々たるものだが…。
原因を聞いたとしても、方法が分からないのであれば聞く時間の方が無駄だと言ってもいい。
少し黙って、ロッカは言葉を放つ。





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