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□魅せられた光景
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「待つしかない」
「っ…!待つ…って」
「この状態は、今“海”を漂っているところぜよ」
「は?う、海?」
「詳しくは言えん。けど、その“海”から引き上げられれば、こっちに戻ってくる。要は目を覚ますってことぜよ」
「…じゃ、じゃあ、二度と目を覚まさないわけじゃないんだな!?」
「おまんはバカか。目を覚ますってたった今オレ様ば言ったぜよ、話を聞けクソガキ」
「なっ!クソガキ言うな!」
「あーはいはい。オレ様はおまんに興味ねェから寝る、起こしたら承知せんぜよ」
「っ…何なんだよ、ホントにマイペースだな」
いちいち引っ掛かる言葉を放つロッカ。
ポヒュンッと小鳥姿に変わるロッカは蒼の毛布にもそもそと入り、顔だけ出してそのまま眠りについた。
スースー…と、ロッカの小さく寝息のいい音が蒼の隣に響く。
ロッカとは反対側にいる真昼は、もう一度蒼の寝顔を見直して、少しずれた毛布を上の方へ掛け直した。
そして、ロッカの言葉を思い出す…。
―――――きっとこの手が、コイツの救いになる―――――
「……この手が…蒼の救いに…」
蒼の手と、その手を握る自分自身の手を見やる。
その時、真昼は昔の事を思い出した。
前にも似たようなことがあったな…そう思いながら、記憶を遡る。
――――――――――……
中三の冬、寒い日々が始まる季節。
登校途中に、蒼が突然倒れた。
病院まで背負って、先生に看てもらったら、風邪だと言われた。
安静にしていれば大丈夫だよ、先生はそう言った。
ほっとしたけど、まだ目を覚まさない蒼が心配で、今日一日学校を休むと決めた。
電話を借りて、学校に休みを伝え、叔父さんにも事情を伝えたら、すごく心配した声になった。
『蒼ちゃん、無理してたんだな…』
『……叔父さん』
『言わなくても分かってる。側にいてやれ、真昼』
『うん、そのつもりだよ…』
『ああ。その方が、蒼ちゃんも安心するだろ』
『…うん。ありがとう…』
叔父さんに励まされ、気持ちも落ち着いた。
病室に戻り、ベッドで眠る蒼の手を持った。
『蒼…』
小さい手…。
あんまり強く握りしめたら、折れてしまいそうなくらい。
そのぐらい小さくて、儚い手。
包み込むように両手で握った。
『……ん…』
『あ、蒼!』
『…?……ま、ひる…くん…?』
『大丈夫か?蒼』
『う、うん……私、どうしちゃったのかな…?』
『登校途中に倒れたんだよ。学校には、連絡しといたから』
『…そっか。ありがとう…』
『蒼…具合悪かったんなら無理すんな。叔父さんも心配してたぞ?』
『……ごめんなさい…』
『…でも、重い病気とかじゃなくて良かったよ』きゅっ…
『……』
蒼は何も言わず、目線を逸らした。
映ったその先にあるのは、蒼の手と、それを握っている自分の手。
自分自身で言った言葉で、思わず手を強く握ったからだと思う。
そして蒼はもう一度、目を合わせると、ふと笑みを零した。
『…真昼くんの手、温かいね…』
『え…?』
『ずっと、握っていてくれたんだね…私の手』
『え、あ、これは…!…早く、目を覚ましてほしいって思って…』
『…ありがとう。握ってくれてたんだなって分かったら、ほっとしたよ…』
『…蒼』
『この手は、苦しんでいる誰かを救う手だね…』
『…っ!』