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□救いの手
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(…御国さん)

御国が去って行った方向と、それを見つめたままのF。
出て行ってしまった先の扉と、残されたFを、蒼は動揺を抑えきれず交互に見やる。
取り残されたFの表情は、切なさが降り積もったような悲しげな表情を浮かべていた。
御国のことも気にかかったが、Fをそのまま放っておくことも出来ず、蒼はFへと近づく。
触ることは叶わないが、イスの背もたれに手を置いてFに寄り添った。
Fもまた、側にいてくれる蒼に寄り添うかのように、少し頭を傾ける。








『…人はただ、幸せになりたいと願っているだけなのに……何故こんなにも難しいものか…』




(え…?)


カタン

Fは椅子から立ち上がり、御国の去って行った扉へ歩き始めた。
蒼も小走りで、てててっとついていきながら(どこへ向かうんだろう?)と疑問が過る。
こんな夜更けに、長く続く廊下は出口のない道の様に見えた。
するとFは、一つの扉の前で足を止めた。






(ここ?)


ギィ…

(え?えぇっ?)


Fは何のためらいもなく扉を静かに開いた。
開けてすぐに中へと入るF。
勝手に部屋に入っていいものか悩み、わたわたしながらも…。




(お、お邪魔しま〜す…)


緊張した様子で、結局蒼も中へ入ってしまう。
きょろきょろと見渡すと、Fがいた。
その前には、大きなベッド。
どうやらFは、ベッドで眠る誰かを見つめているようだった。
蒼も静かに近づき、誰が寝ているのか気になって見てみる。
そこには…。












(この子……まだ小さいけど…御園くん?)


ベッドの上ですやすやと眠っていたのは、幼い御園だった。
なんとも愛らしい寝顔。
Fと蒼は同時に手を頭の上に置いた。







(あ、Fさんも頭に…)


Fが御園の頭を一緒に撫でているのが分かった。
(可愛い…ホントに天使みたい)蒼も微笑ましいと思いながら御園の頭を撫で始めた。
Fも蒼と同じようにふわりと優しく微笑んだ。
だが撫でていた手を止め、またも表情が険しくなる。
隣にいた蒼は、様子が変わったのが目に見えて、?を飾した。






(?…急にどうしたんだろう…)










『幼き人の子の弟よ…そなたは愛される為に、この世に生まれてきたのだ』



『…ス―――……ス―――……』






『誰の命も、生まれるべき命ではないことなど、決して無い。

 …いずれ、真実をその目で見ることになろう。

 だが忘れるな。そなたは愛されている…愛される為に生まれてきたのだ…!

 決して忘れるでないぞ…幼き人の子よ』





『……んん〜〜…』


言い終わると、御園は寝返りを打ち始めた。
Fは払いのけるかように自分の手を離すと、くるっと後ろを振り向いてその場を去って行った。
蒼も思わず御園の頭から手を離し、去っていくFの後ろ姿を見つめていた。
御園はむくりと起き上がり、眠そうな目をこする。





『ん〜……いま、誰かいたような…』


扉に目を向けるが、そこには誰もいない。
隣で透けている蒼の姿も、幼い御園には見えていない。
ベッドからゆっくり降りると、御園は扉へのそのそと歩き始めた。
扉を開き、廊下をきょろきょろと見渡してみるが、人の気配はなかった。
御園は徐に廊下に出て、どこかへ歩き始めていく。







(?御園くん、どこ行くのかな…?)


蒼もはぐれないようについていった。
するとどこからか音が聞こえた。
御園も音に気付き、その方向へ歩き出す。





(なんだろ…何でか、嫌な予感がする)


ぞっと背筋を凍らせるような空気。
緊張を張りつめらせるような雰囲気に、足を震えさせる。
そして辿り着いた先に、待ち構えているような一つの扉。
隙間から、御園は目をこすりながら中を覗いた。
蒼も同じように目を覗かせる。









『…お兄ちゃん?何してるの? …誰…?』


(っ!!そっか、思い出した…!!)





ドアの隙間から映し出された、少年の…痛々しい表情。
それが蒼の心をズキンと突き刺すようなもの、それを以前にも視た事を思い出す。
幼い御園をすり抜け、ドアをすり抜けて手を伸ばす蒼。
今度こそ抱きしめてあげなきゃ…!!そんな思いを抱えて。






(御国さんっ!!!)




だが…。



















     ―――――無駄ぜよ…―――――







(っ!?ロッカ!?)



全てが真っ暗に、瞬時に変わっていく。
伸ばした手は行き場を失い、どうしようもなくなってしまった。
そんな中で、またもロッカの声が響く。







     ―――――こりゃあもう、過去の出来事…―――――





     ―――――起こってしもうた出来事を、変えることは出来ん…―――――






     ―――――絶対に出来ん…不可能ぜよ―――――






(っ……分かってる…分かってるよ……でも…)


今にも消えそうなか細い声で呟く蒼。
悲しげな表情で俯き、だらんと力が抜けたような手に拳を作る。
変えられない過去を見ても、何も出来ない事に…。
当時の御国を、抱きしめてあげたいと思って手を伸ばしても、その手は届かない事に…。











(それでも…それでも、抱きしめてあげたい…っ!大丈夫だよって…)






     ―――――……―――――











景色が映り始めた。
そこは誰かの部屋、周りに本が沢山並べてある。
入りきらない本は机に山積み、散らかっていると言っても過言ではなかった。
はっと気付いた時には、そこに身体が透けた状態の蒼がいて、きょろきょろと辺りを見回した。





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