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□救いの手
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(あれ、ここは…書斎?部屋?本がいっぱい………あ…)


『……』

その部屋に、Fもいた。
だが、そこにいるFの表情は未だ険しい表情のままだった。





(Fさん、さっきからどうしたんだろ…?)


心配になる蒼。
どんなに心配しても、理由を聞くことはできない、そのもどかしさが蒼の眉間にもシワを寄せた。
すると部屋の外からダダダッと切羽詰ったような走る音が迫ってきた。




バンッ

『はぁっ…はぁっ…』






(!…御国さん?)


青ざめた表情、震える手と足。
息が荒く、冷や汗をかいた御国の様子は、何かあったとしか思えない雰囲気だった。
そんな姿でも、Fは慌てる素振り一つせず、その場から動かずして御国の方へ振り向いた。





『どうした?…髪や衣服が乱れている。息が荒く、動機が早い』

『っ!…アンタこそ、何でオレの部屋にいるんだよ』

『…呼ばれたのでな。そなたに』

『はぁ?呼んでないし…』


『……』

『……』


二人の間に沈黙が生まれる。
先に口を開いたのは、Fの方だった。






『……どうした、人の子よ…』

『っ…オレ…オレは…っ』

『…そなたは、自分自身の行動にどう思う?…どう感じる?』

『っ!…驚かないんだね……もしかして、知ってたの…?』

『……』

『なんで、何も言わないの!?…なんでっ、なんで何も言わないんだよっ!!!






(はっ!この会話、御園くんの家を出た時に言ってた…!……一体、何があったの…?)


荒々しい御国の声に、以前視た記憶を思い出す。
姿の見えない蒼は、二人の間に挟まれたまま。
胸の辺りをぎゅっと握りしめ、きゅっと唇を噛み締めて、ただ見守るしかなかった。




『そうだ、アンタが来たタイミングはおかしかった…。

 まるでこうなる事を予測してたみたいだ…!

 そうだよ、アンタは魔女だ…!

 予測なんて、ましてやこんな一家族の事なんてお見通しだろ!?

 嘲笑いに来たのか?馬鹿にしに来たのか?見下したいのか!?


 アンタの目的は一体何なんだ!!





『…目的を知ってどうなる?私とそなたは他人であろう?』


『っそうだよ、他人だよ。

 他人のアンタが、ずかずかと他人の家に上り込んで…!』





『招いたのはそなた自身だったが?』




『っ間違ってたんだ…オレが間違ってたんだよ!

 見ず知らずの他人を入れるなんて、オレどうかしてたんだ…っ。


 そうだよ、図ってたんだお前は…!!

 狙ってたんだよ!最初から!!

 この家の事を知っているから、その結果を見届ける為に来た!!

 沢山の知識を引っ提げて、人間は馬鹿だと嘲笑いに来たんだ!!

 欲にまみれた、堕落した生き物だと見下す為に、この家にのこのこと入ってきた!!


 そうだろ!!?おぞましい魔女!!!






『……』






(もうやだ…やめて…!)


御国の毒を注ぐような言葉たちは、蒼にとっては我慢の限界であり、耳を塞いだ。
震える足は床に膝を突かせ、身体を小さく丸める。
そして、自分自身に吐き出されている言葉にも関わらず、Fは眉一つ動かすことなく、冷静を保っていた。
横目で見る蒼からも、疑問に感じる程に恐ろしく静寂で、まるで何も感じていないかの様な雰囲気さえ感じ取れる。






(…何で…?この人の様子、何も変わってない…!何でよ!?こっんな酷い事言われてるのに…っ)








『そうやって黙ってれば逃れられると思ってんのか!?

 大人ってほんっと最悪だよな!

 そうやってごまかして隠し事ばかりしてる大人や、

 他人の家族の結末を見下しながら見届けようとするお前の方がよっぽど最悪だよ!!』







(違う…違う!!そんな事、この人は思ってない!!






『薄汚い魔女が!!最低最悪な魔女!!

 お前なんかこの家に入れるんじゃなかった!!

 お前に声なんか掛けるんじゃなかった!!

 お前に会いたくなんてなかった!!お前なんか消えろ!!

 お前なんか…っ、お前なんか…っっ、


 お前なんか魔女狩りに遭って死んでしまえ!!!






『……』


(…うっ……ひっ…く……)







シン…


御国の最後の言葉で、一瞬の静寂を生む。
ドス黒い気持ちが吐き出されたのを聞き続け、涙を流す蒼。
悲しむ声だけが、蒼にしか聞こえない声が部屋に響く。
そしてFは、静寂に包まれる中でふっと笑みを零した。








『…言われずとも、そなたの願いは直ぐに叶う』




『え……あ、あれ…?オレ、は…何を…?』


Fの言葉に、御国には我に返った。
あれだけの言葉を浴びせられたにも関わらず、笑っているではないか。
ふと浮かべている笑みは蒼にも見えていて、疑問が生まれた。
その疑問は、御国にも生まれた。




(この人は…何で…)


『どうして、笑ってるんだ…?』







『ふふっ…満足か?』


『え…?』

『己のどこにもぶつけられぬ思いを、不安を、迷いを…私にぶつけて満足か?と聞いている』

『あ…』


言われた御国はまたも我に返り、目を見開いた。
自分が何を言ったか、酷い言葉をぶつけてしまった事を思い出した。
なんて酷い事を言ってしまったのだと…。
愕然とし、下へ俯く御国は力が抜けたように床に膝を突きしゃがみ込んだ。





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