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□スノウリリイ
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「ふ―――――…いいお湯だった…」
温泉でさっぱりした蒼は、小鳥姿のロッカを頭に乗っけて真昼のいる大部屋に向かって歩いている。
ロッカもさっぱりできたことと、まだ力が回復していない為、体を預けて丸めながら眠っていた。
大部屋の前に着いた時、真昼の声が聞こえた。
どうやら電話で誰かと話しているようで、ふすまを少し開けて中の様子を見てみる。
「あっ、御園!?どうしたんだよ…こっち来れないのか!?」
『城田…いつの間に洞堂の番号を…』
「この前名刺もらったんだよ!お前のケータイつながんないし」
『僕は今…しばらく家を出るなと父に言われてて…』
「は?」
どうやら様子がおかしい。
電話の相手は御園だということが分かり、蒼も心配して静かに障子を開けて中へ入って行った。
「えっ…だから、それはこの前行ったときに話して…それで…後でこっちに合流するって約束しただろ!?3日前に…」
『3日前?何の話だ?』
「!?」
『とにかく…悪いが僕はしばらくそっちにはいけないから』
「ちょ…っ」
電話を切られた様子。
真昼は疑問を抱いているような目で画面を見つめていた。
「……?…なんだ…?この前俺達と会ったことが…なかったみたいに。なあクロ、御園の様子がなんか変なんだけど…」
まじめに質問する真昼だが…?
「ふ――――。オレ温泉宿の看板ネコでもいーかも…。毎日温泉…」
「お肌すべすべになってんじゃねー!!このニート!!」
緊張感の欠片もなく、頭にはタオルを乗せ手には湯呑を持って落ち着きモード全開。
おまけにお肌もつるつるすべすべ、満喫状態だ。
真昼もツッコミせざるを得ないのであった。
そこへ蒼は声を掛けた。
「真昼くん」
「ん?あ、蒼。上がったのか」
「うん。ねえ、御園くんどうしたの?何かあったの?」
心配そうな表情で真昼の隣にスッと座った。
「いや、それがさ…さっき電話したんだけど、3日前のことがまるでなかったみたいな口ぶりで…」
「え?だって、合流するって言ってたのに…」
「ああ…でも、なんかおかしい。相談したいって言ってくれたのに…」
「心配だね…」
御園を心配し、真昼と蒼の表情は一気に暗くなる。
だがすぐに、真昼は顔を上げた。
「俺、御園の家に行くよ!」
「!」
「何があったか分かんないけど、このままじっとしててもしょうがないし。友達が困ってるんだ…できることがあるなら動かなきゃ…!」
「なら、私も行く!」
蒼は真剣な表情で真昼に言った。
だが蒼の身体の心配もあり、真昼は戸惑う。
「え?いや、蒼はここで…」
「じっとしていられないよ!御園くんが心配だもん!」
「けど、蒼だってずっと眠ったままで、今日起きたばかりだし…身体が…」
「もう平気だよ。…お願い、私も連れて行って?」
「蒼…」
蒼の真剣な表情…。
御園を本気で心配しているのが目に見える。
真っすぐと見つめてくる蒼の思いに、真昼は折れた。
「〜っ…分かったよ。けど、蒼だって本調子じゃないだろ?絶対無茶はするなよ?」
「う…が、頑張る…」
「うん、頑張ってくれ…」
「あ、あはは…」
苦笑する蒼に真昼もクロもはぁ〜とため息をついた。
ただでさえ危なっかしい蒼に、不安は募るばかり。
真昼は蒼の額にコツンと軽く拳で突いた。
「笑い事じゃないんだぞ?」
「は〜い」
その後、深夜に御園の家に行くことになった。
出掛ける準備をする中、ロッカは蒼をじっと見つめていた。
髪を結わき直している蒼に対し、納得のいかない表情で…。
「…もう、なにふてくされたような顔してるの?ロッカ」
『お前さんは、オレ様の忠告をいつまで聞かないつもりだ。ああ?』
「う…だ、だって…」
『お前さんは優しすぎるぜよ。それ故に、背負い切れんもがを背負おうとして、今日も色欲の主人(イヴ)を心配して…』
「だって、御園くんが心配なんだもん」
『んなこたぁ分かってるぜよ。けどお前さんは分かってない』
「分かってないって…何が?」
『……』
「?」
座布団の上、ちょこんと小鳥の姿で座っているロッカ。
納得のいかない表情から、真剣な表情へ。
真っすぐと見つめてくるロッカの紅い瞳が、まるで燃え盛る炎のように映った。
蒼にも自然と緊張感が走る。
『お前さんを…雪見蒼を愛するもん達の思いを、お前さん自身が理解しちゃーせんだ』
「…っ…そ、それってどういうこと…」
「おーい、蒼!そろそろ行くぞ?支度できたか?」
障子の奥から真昼の呼び声が掛かり、はっとする蒼は障子に向かって「う、うん!終わったよ!」と慌てて返事をした。
動揺したまま、横目でロッカを見やる。
真剣な表情は変わらぬまま…真っすぐと蒼を見ていた。
『……行くんだろ?色欲のいる館へ』
「…う、うん」
『……』
パタパタッ
ロッカは蒼に向かって飛び始めた。
蒼の頭の上を1回転回りながら飛んだ後、蒼の肩へ着地した。
肩にちょこんと止まっているロッカを見ている蒼は、硬直したまま。
『おら、待っちゅうだろ?行かぇうてえいがか?』
「あ、う…い、行くよ」
蒼はロッカの言葉に漸く身体を動かし、障子の前へ向かった。
スッと開けると、そこには真昼と肩に乗っている黒猫姿のクロがいた。
「あ、蒼。鉄はもう玄関にいるから…って、どうしたんだ?顔色が…」
「…ううん、何でもない。いこっか」にこ
「?おう」
ロッカの言葉が引っかかるが、真昼にはそんな素振りを見せず、笑顔で対応する蒼。
玄関に向かうと、既に鉄とヒューが待っていて、揃った一行は有栖院家を目指した。
蒼は起きたばかりだから、無茶するなと鉄とヒューからも言われ、真昼に言った時と同じように「が、頑張る…」と返した。
その頃の有栖院家にて、事態が急変していることなど知る由もなく…。