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□“色欲”
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「でも…その“物”が狙われるなんてさ。吸血鬼(サーヴァンプ)って案外もろいんだなあ…。
俺も鈴なんかじゃなくて、もっと頑丈なものをあげればよかったよ。鈴なんてすぐ壊れそう…」
「それは関係ないのう」
もそもそとクッキーを食べるクロ。
そのクロがいつも首にかけている鈴を、ヒューはキセルでひょいっと持ち上げた。
持ち上げた鈴はイスの上にトンと置かれる。
「鉄、思いっきりじゃ」
「ん?それを?」ガタ
「やるのじゃ」
立ち上がる鉄に嫌な予感を抱える真昼。
ガタンッと立ち上がり「えっ!?」と冷や汗をかいた。
隣でクロもビクッと身体をこわばらせる。
「ちょっ…何する気だよ!?」
「て、鉄くん?」
ぐあっ
「待っ…」真昼の制止しようとする声が届く間もなく、鉄は持っていた棺桶を思い切り振り下ろした。
ドゴォ…ンと音を立て、ビリビリビリと鳴り響く反響は、メイド達を困惑させた。
真昼達も同様だったが、いざ鈴を見てみると…?
「「…!!」」
「どうじゃ?」
鉄の力で潰されたにも関わらず、チリンと音を鳴らした鈴はそのままの状態を保っていた。
「お――――」「すごい、壊れてない…」鉄と蒼も今の状態に声を上げずにはいられなかった。
「吸血鬼(サーヴァンプ)と主人(イヴ)の信頼関係が正常であれば、破壊はできんのじゃ」
「……。知ってたけど」ドキドキ
「嘘吐け!!お前すげえドキドキしてただろ!!」
「……。ロッカは、知ってた?」こそっ
「…ピィ」こくん
「しかし…こんな事例など過去にあったかのう。主人(イヴ)にもらった“物”が壊されて灰塵(ジン)が放たれるなど…。
憂鬱(あちら)のほうが知識が深いというのは癪じゃ」
「なんだ…クロやヒューにはよくわかんねえの?椿達は色々詳しそうだけど」
「っ!…真昼く…」
「自分達の生態のことなのに、よく知らねえの?」
真昼の何気ない問いかけに、クロやヒューの目つきが変わる。
蒼は分かってしまったのだ…。
真昼が何を問い掛けようとしたのか、直ぐに名前を呼んだがそれさえも振り払われるかのように問いかけてしまった。
軋むように蒼の胸は痛み、ぎゅっと拳を握りしめる。
ぼそ
「…知りたくもねえよ」
「っクロ…っ」
「…自分が化け物だって証拠、積み重ねて楽しいか?」
クロの言葉に、真昼は何も言うことができず…。
すると蒼がバッと両手を伸ばしてクロの袖をぎゅっと強く握った。
いきなりの事でクロもびっくりした顔で蒼を見やる。
「!」
「……っクロ…っ」
ふるふると身体を震えさせ、下に俯きながらぎゅっと目を閉じて涙を浮かべていた。
「…何だよ」そう問いかけても、蒼は意味有り気に首をふるふると横に小さく振ることしかしない。
何も言わない蒼に、クロはポンポンと頭を優しく叩いてあげた。
ヒューも蒼の様子を見ては心配になり、蒼に歩み寄る。
「…蒼、お主…何故泣いておるのじゃ?」
「…っ…ヒュー、ちゃ…」
クロの袖から手を離し、ヒューの前に膝をついてしゃがみこんだ。
両手を伸ばし、ゆっくりとヒューを抱き上げてぎゅっと抱きしめた。
抱きしめる手も、未だ震えは止まらない。
何故泣いているのか、何故震えているのか、ヒューにも理解できないまま…。
けれどヒューの内にぽうっと何かが灯ったような感覚が浮かび上がった。
無意識にヒューはしがみつくように蒼の袖をぎゅっと握る。
「……蒼」
その様子を、クロも真昼も鉄も何も言えないまま、そして蒼をよく知るロッカですら、ただ見守るしかなかった。
そんな時…。
キイ
「ああ…ここにいたのか」
「!」
ドアの開く音が響き、視線を持っていったその先には御門が立っていた。
こしっ、と蒼も涙を拭ってヒューを下ろし立ち上がる。
「御園の、おじさん。…御園は?」
「ああ…心配をかけたね。もう少し部屋で休むと言っていたよ」
そう言うと、御門はイスに手を掛けた。
ガタ
「君達には色々とお礼が言いたくてね」
「え?」
「私達は…過信していた。何がきても、リリイがいれば大丈夫だと。
…君たちが御園を訪ねてきたあの日、ちゃんと君達と協力しようとしていたら、
こんなことにはならなかったのか…」
イスに座り、頭を下げるように項垂れる御門。
「…息子を、助けてくれてありがとう」
「あっ…いや、俺達はあまり大したことは…できなかった…」
「君達があそこでリリイと戦ってくれなかったら…リリイを食い止められる人間はこの家にはもう居なかった。
君達のおかげで、御園はもどってこられたんだろう…」
するといきなり!!
ガタッ
「わっ!?」
鉄がいきなり立ち上がった。
「わりィ、便所」
「ちょ…鉄?場所わかるか?」
「私ついていくよ。行ってくるね?」
「お、おお…」
棺桶を背負い部屋を出て行く鉄。
その後ろにちょこちょこと蒼がついていった。
「ヒュー、ついていかねーの?」
「そこまでヤボじゃないのじゃ」
「彼…千駄ヶ谷くんと言ったか。彼にもひどいことをした…」
二人が去った後、真昼は気になっていた事を問いかけた。
「…あの…、この家はずっと、リリイが守ってきたんですか?あと…嫉妬の吸血鬼(サーヴァンプ)もこの家に…?」
「…リリイは、私の先祖にあたる女性と契約をしたんだ。
リリイがこの家に望むのはひとつ、『自分と自分の下位吸血鬼(サブクラス)を匿うこと』。
かわりに自分がこの家を守る…と。
…嫉妬の吸血鬼は、何十年か前にリリイがこの家につれてきた。
ただ…“嫉妬”は誰との契約も望まなかったんだ。
長い間その吸血鬼は地下の部屋で一人、大人しくしていて…」
「…えっ?でも、ジェジェは今…」
御門の言葉に、今とは違う現状が更に問いかけを生む。
「あの…御国さんと何があったのか、教えてもらえませんか…?」