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□天使と悪魔
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   #25.天使と悪魔





なんだろう…




あたたかい… やわらかい…


ふわふわと浮かぶ 白と黒が混ざり合う雲の上で…

音楽が 聞こえてくる…


白と黒の鍵盤… ポロロンと奏でるメロディー…




これは… ピアノの旋律…?


…嗚呼 知ってる…この曲



















『涙しろ』





黒髪なのに 少し白が混じってる人…

どこかで 見たことあるような…









この曲は… ベートーヴェンの “エリーゼのために(For Erise)”



風に乗って流れてくる…

優しい音が降ってくる…





『『誰』にもなれやしないっスよ』





黄昏色の髪に、少し黒が混じってる人…

何で 悲しそうな顔をしてるの…?









何でかな…

嬉しい様な 悲しい様な


感情が高まる… 胸の奥が熱くなる…





何で こんなにも


涙が 溢れてくるのだろう…
















そう…


この音 この旋律 まるで…























――――――――――……




「…まる、で……」


障子から朝の日差しが透けて射し込む。
目が覚めて、蒼は静かに涙を一筋流していた。
しばらく天井を見つめ、意識がはっきりするのに時間が少しかかる。
見慣れない天井から、今は鉄の実家に泊まり込みしていることを思い出した。
むくっと起き上がり、伝っていた涙をごしっと拭いた。




「あれ、なんだっけ…?」

夢の内容が思い出せない蒼。
もやもやした気持ちのまま、蒼は布団から抜けると障子をスッ…と開いた。
抱えていた暗いものを溶かしてしまうような、気持ちのいい朝。
目を閉じ、自然の息吹を感じた。





「…ピィ〜〜…ピ…?ピィィ〜…?」


「あ、おはよう。ロッカ」


小鳥姿のロッカが目を覚ました。
目がまだぼんやりとしている姿に、蒼は微笑ましく思い笑みを零した。
パタパタと蒼のもとへ飛び、肩に乗っては一緒に朝日を目に映す。






『…良い朝ぜよ』


「うん…」

『このオレ様ば光り輝かせるのに相応しい朝日じゃき』

「ふふっ、そうだね。白い毛並みが光ってて、凄く綺麗だよ」

『ふんっ、当たり前ぜよっ』

「ねえ、ロッカ。今日凄く良い天気だし、せっかくだからお出掛けしない?」

『ああ?何でほがなこと…』

「いいじゃない、ね?この前だって色々バタバタしちゃってできなかったし」

『…仕方ねーな、このオレ様が付き合っちゃるとするか』

「やった♪ありがとう」


そう言うと、蒼は「ん〜っ!」と身体を伸ばし、準備を始めた。
せっかくだから、ロッカと同じ色の白い服を着ていこう♪
この間、ロッカが着てる服と似たようなの見付けちゃったんだ〜♪などとウキウキ気分で。
ロッカも待ち遠しく、くるくると円を描きながら小さく飛び回っている。
洗顔と歯磨き、髪を整えに洗面所へ向かう二人。






パシャッ

「ふわぁっ。…っと、あれ?タオル…」さわさわ…


「ほれ、タオル」すいっ

「あ、ありがとう」


水で濡れた顔を柔らかいタオルで拭き取り、綺麗さっぱり。
人間姿になったロッカと一緒にワシャワシャ。
そして髪をいつもと同じく横にまとめて結ぼうとしたその時。





「おい、オレ様にやらせろ」

「えっ?やってくれるの?」

「だから、そう言うてんだろ」

「ありがとう、じゃあお願いするね」


ロッカに櫛を渡すと、椅子を使って蒼より身長を高くした。
髪をサァーっと解かし、徐にドライヤーを手に取る。
ドライヤー?と首を傾げながら、とりあえずじっと待つ蒼。
ロッカは器用にくるくると髪を巻いて、“set”の状態でスイッチを入れた。
暖かい風が小さく巻き起こり、それを巻いた髪に当てる。
それを他のところで何回か繰り返し、出来上がったのは緩やかなウェーブ。
ちょっと遊び心で、真後ろに髪を一部まとめて水色のリボンで結んで出来上がり。
仕上げに、髪の質を良くしてウェーブの状態を少し保たせてくれる。






「どうだ?オレ様の仕上げは」


「ほわぁ〜…っ」


頬に赤みを帯び、髪に手をふわりと当てる蒼。
鏡に映る姿は、自分なのに自分ではないようで。
自然と目がキラキラ輝いた。




「凄いっ…凄いねっ。まるでお姫様みたいっ。ありがとうロッカ!」にこっ


「……ああ」

ふっと笑みを零すロッカ。
蒼の髪型を見つめ、どこか懐かしさを噛みしめたように…。







準備が出来た所で、蒼とロッカは玄関で靴を履いていた。






「ん?よぉ、蒼」


「あ、鉄くん。おはよう」

「どっか出掛けるのか?髪巻いてるし」

「うん。ロッカと出掛けてくるね。真昼くん達にも、起きたらそう伝えといて?」

「おう。んで、何時頃戻ってくるんだ?」

「夕方までには戻るよ」

「ん、そーか」

「じゃ、行ってきます」

「おう、気を付けろよ」

「はーい」


朝早くに起きた鉄に見送られ、ロッカと手を繋いで外へ出た。
気分も変わり、歩いていく内に蒼は「あっ」と思わず声を出した。





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