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□涙
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   #27. 涙





がくがく

「……私っ…私……は…っ」




ポンッ

「落ち着け、蒼」


「…っ…リヒト、さん…?」


いてぇ…と呟きながら、震えていた蒼の肩に手を置いたのはリヒト。
ロウレスに壁にめり込むほど吹っ飛ばされたにも関わらず動こうとする。
目の前では、ロウレスとクロが対戦していた。




「あンのクズネズミ…!この俺を吹っ飛ばしやがって、絶対に殺す!」グラ…

「だ、ダメですよリヒトさん。怪我してるのに…」

「こんな傷何ともない。あんな悪魔にやられる俺じゃねえ。何故なら俺は……」



























「…天使、だから……?」




「……」

蒼の前に立つリヒト。
リヒトの言葉に続ける蒼。
蒼を見下ろすリヒトは、そっと手を伸ばした。










ポンッ


「大丈夫だ。天使であるこの俺が、あいつら悪魔共を浄化してやる」


なだめるように、落ち着かせてあげるように、蒼の頭に手を置いたのだ。
蒼に対しての、リヒトなりの優しさだった。
スッ…と手を離すと、そのまま向かっていくリヒト。
バッと顔を上げた蒼は「リヒトさん、浄化って…?」と言い掛けたが、全部言えないまま…。
リヒトはとんでもない脚力でジャンプした。





























そして…。




「おい、うるせえっつってんだろ。吸血鬼(あくま)ども」


足を高く上げ、二人のケンカにガンと蹴りを入れるリヒト。
「げっ、天使ちゃ…」振り向いた矢先に、ロウレスは顔を床に踏みつぶされた。









「俺の視界に入るな、クズネズミ」



そんなセリフを吐き捨てるリヒトは、真昼へジロッと睨みつける。
あまりに鋭い目つきに思わず「ひっ…」と声を上げる真昼。
持っていた武器(リード)を、リヒトはパシッとひったくるように取り上げた。


「貸せ」

「!?」



一体何をするかと思いきや…!








ぐにゃっ


「!?」

武器(リード)を折り曲げる。
そしてクロの元へ思い切り投げた。






ブン

「ちょっ…えええええ!?」


ガシャン!と武器(リード)がクロを捕える。
壁に突き刺さった武器(リード)は動きを封じた。
「そ…そんな使い方…」これには真昼も驚きを隠せない。









「うるせえっつってんだろ。

 てめえらに今許されてんのは、ただ黙って俺のピアノを聴くことだけだ」





「リ、リヒトさん…凄い…」

近くで見ていた蒼も思わず茫然と見てしまう。
リヒトの足元から黒い影が現れ始めた。
それは形を作っていき、白と黒の鍵盤が音を奏でるピアノに変化する。



















「涙しろ」





「っ!?今の…!夢で聞いた声…ここのことだったんだ…」

そして始まる、天才ピアニストの演奏。











ポ――――ン



「な…何だこれ!?あっ……?」

真昼の中によみがえる、過去の記憶。
大好きな母に幼い頃撫でられた、愛おしい思い出。
「あ…っ?」溢れてくる、母と過ごした出来事、母の笑顔。
何故そんな思い出が今思い出されたのか、理解が追い付いていかない。








「母…さん……?なんで…こんな…」


「オフィーリア…」




影響があるのは、真昼だけではなかった。
ロウレスも、そしてクロも…。

             ・・・・・・・・・
「…くそ…。これはオレの…いい思い出じゃないんだって…」



ギチッ ギッ…









     ―――――過去の記憶 それを見せられてる…!?―――――






「ク……」ぞっ


クロの重々しい雰囲気と表情に、真昼は目を見開き青ざめた。
一方で蒼も、リヒトの影響を受けている。





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