Word
□涙
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「あ…な、に……これ、は……っ」
脳裏に浮かぶ思い出たち。
再び頭を抱える蒼、それを遠くからロッカが見つめていた。
(マズイぜよ…この旋律……明らかにあやつの記憶に影響している…!?このままじゃ…)
「知ら…ないっ……こんな、の……私は…知らな、い……」
――――――――――……
ここは―――…
本と、紙が沢山積んである。
分厚いファイルが立てかけられていて、テレビ画面がいくつもある。
写真立てと、カップから湯気が立ち込めている。
この香りは、コーヒー…?
ここは、C3に連れて来られた時に見た風景と、同じ…?
『やあ、どうしたんだい?』
『眠れないの?』
『じゃあ、ご本を読んであげようか』
『どれがいいかしら?』
『あ、あのね…?』
『…ん?なんだい?』
『なしたの?』
『わ、私…貴方達のこと好きよ?…お、お父様……お、お母様……』
『…ありがとう』
『私達も、●●●●のこと、大好きよ?』
『ほ、ほんと…?ずっとずっと、一緒にいてくれる…?』
『…うん、勿論だよ』
『…ずっと、一緒にいましょう』
優しそうな人達…。
…だけど…
『勿論だよ』『ずっと一緒にいましょう』そう言った二人の表情は、どこか…。
どこか悲しそうで…。
それに、その時聞こえなかった相手の声…。
姿は見えないけど、少し声が高いけど、間違いない…この声は、紛れもない……
―――――私 の 声―――――
――――――――――……
『……僕は…何の為にいるんだろう。何でここにいるんだろう』
椿、さん…?
どうして、椿さんが…?
『…悲しい?』
『…分からない』
『…私に、出来ることはあるかしら?』
『……』
『……大丈夫よ?椿は独りじゃないもの。私がいるわ』
『……けど…』
『…なら、貴方に唄を届けましょう。唄は、言葉も人も種族も、何の隔たりも無いのだから』
『……うた…?』
『そう、唄。唄はね?時代も世界をも越えて、いつまでも遺せる素晴らしいものだわ…!』
『時代も…世界も…っ』
『さあ、届けましょう…この唄を。与えましょう…貴方を支える、この唄を…』
『…僕に…?』
『…だって、今の貴方に必要だと思ったから』
分からない…。
分からない…。
こんな記憶、私は知らない…!
こんな所で、椿さんとお話しして、唄を歌ったなんて…!
でも、今度の声は、間違いなく……“私の声”だった。
忘れている…?
忘れてしまったの…?
椿さんは、ずっと覚えていて…。
きっと、最初に見たあの二人も、覚えていて…。
なのに私は……私は……!!
―――――いいのよ♪ 楽になればいいのよ♪―――――
―――――貴女の中に現れた記憶♪ 嫌なら貰ってあげるわ♪―――――
―――――だって♪ それは♪ それは…♪―――――
――――――――――……
キ―――――――――ンッッ!!!!!
「あぁぅぅうああああああああ……っ!!!」
「蒼っ!?」
突然叫びだす蒼。
今まで感じた事のない強い耳鳴りが蒼を襲った。
真昼が駆け寄ろうとするが、先にロウレスが行動に移った。
・・
「あ―――――もう…リヒたんのピアノの、これ…だけは
許せないんっスよお!!」
ダッとリヒトに向かうロウレス。
そこへ金髪の男性がドアを思い切り開き叫んだ。
バン
「ギル!!2人を止めろ!!」
「あっ!?さっきの…」
どうやら真昼は知っているらしく、そう言いかけると背後を目にも留まらないスピードですり抜ける大きな影。
ロウレスの剣とリヒトの足をパンと止めた。
(!?あの2人を止められるなんて、どんな…)
真昼が気になるその影は、リヒトとロウレスの頭を互いにぶつけさせた。
ゴッといい音が鳴り響く。
そこへ先程の金髪男性が駆け寄ってきた。
「よ――しっ、ナイスだ!!
ギルデンスターン!!」
ドォ…ン
(?)
そのファンシーなくじらの着ぐるみに真昼は硬直してしまった。
なにそのたてがみ、目がつぶら、かわいいね…。
金髪男性はそのくじらとハイタッチをした。
パン
「Trės bien!(トレビヤン!)」
「いってーっス、も――――っ!!」
「ころす…」
「オレの下位吸血鬼(サブクラス)のくせに何するんスかぁっギルデンスターン!!」
あまりに痛かったのか、ロウレスの目に涙が浮かんでいる。
リヒトも頭を抑えて物騒な言葉を呟いた。
どうやら二人の知り合いの様だが…?