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□“Life’s but a walking shadow”
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#28. “Life’s but a walking shadow”
あの後、気まずい雰囲気を残しながら白ノ湯温泉に戻ってきた一行。
風呂上がりの真昼の目に留まったのは、縁側にちょんと座るライラック。
髪を拭きながら声を掛けた。
「ライラ!」
声を掛けられたライラックは真昼の方を見た。
「温泉いーのか?シャワーしか使ってないよな」
「あ、う、うん。ぼくは、いい…かも」
「その…いろいろごめんな。御園はリリイが椿の下位(サブクラス)にやられちゃって…早く解決したいんだ。
ほんとはいい奴なんだよ」
旅館に戻ってくる前、御園の提案でライラックも旅館に連れてくることになった。
だが念の為ということもあり、鉄と共に行動してもらうこととなったのだ。
「食べる?モナカアイス」
真昼は気を遣い、持っていたアイスをライラックに分けた。
ライラックは少し怯えた表情でありながらも、頷き受け取る。
そして、疑問に思っていることを打ち明けた。
「あの…真昼。真昼はどうして…ぼくを庇ってくれるの?ぼくはきみの、敵の吸血鬼なのに」
問い掛けられた言葉に耳を傾ける真昼。
ライラックは呟くように続けた。
「ぼくを庇ったから…“強欲”とも決別した…。ぼくは…きみの誠意に、こたえないといけない…のかも…」ぶつ ぶつ…
「ん―――…俺はさ」
真昼は答えを口にし始める。
自分の思いをライラックに伝えた。
「俺は別に…椿達と戦いたいわけじゃない。ただ止めたいだけなんだ。戦わなきゃいけない時もあるとは思うけどさ。
殺しあったって、何も変わらないだろ?」
<何言ってるの 真昼>
黒い何かが、真昼に問い掛ける。
「それは…理想論、かも…」
<そんなコトばかり言ってるカラ キミはコドモなんだよ!>
まるで、黒い何かの思いを伝えるかのように、ライラックは口にする。
一粒の涙を浮かべる黒い何か、その言葉は真昼に届かない。
「戦いたくないのはぼくも同じだ…。けど、でも…そう思ってるなら、ヒガンさんには気を付けて…」
「え?」
「ヒガンさんが…憂鬱組(ぼくら)のNo.2だから、あの人が、下位吸血鬼(サブクラス)で一番強くて危険だ…」
顔をうずめ肩を小さく丸めて、でもしっかりと伝える。
伝えた言葉には、彼岸花が咲き誇り、その先に待ち構える黒い影がはっきりと映し出されていた。
「ぼくが…きみに与えられる情報は、このくらい…かも」
「No.2…」
狂気をまとうその影は、いずれ出会う事も知らずに…。
「そういえば…」
「え?」
「あの子…大丈夫、かな…」
「あの子?」
「…このアイス、本当は…あの子に…蒼に、持っていこうとしたんじゃ…ないの…?」
「…っ」
食べかけのアイスを見て、真昼に目を向け問い掛けたライラック。
不意を突かれたように言葉を詰まらせる真昼は、直ぐに目線を下へ逸らした。
旅館に戻ってきてから、真昼は蒼と顔を合わせてはいない。
部屋へ行ってみたものの、返事はなく、もぬけの空だった。
どうやら風呂へ行ったらしく、仕方なく自分の部屋へ戻ろうとしたところでライラックを見付け、余ってしまったアイスを分けたということだ。
「食べ物、何が好きかって、話してて…蒼、アイスが好きだって…聞いたから…」
「……」
「蒼は、優しい、ね…守る覚悟を、知ってる…」
「…うん。優しいよ、蒼は。けど、自分の命を犠牲にするのは、やっぱり違うだろ。
あの時は、確かに言い過ぎたなって思って、謝りに行こうとしたけど…」
「居なかったの…?」
「風呂に行ったみたいで…あー!思い出したらまたなんかイライラしてきた!」
「……蒼は…」
「ん?」
再び肩を縮込ませて、ぎゅっと手を握りしめながら言った。
確信めいた思いを、口に乗せて…。
「…蒼は、本気で…大切に想ってる、と思う…。真昼を…」
「っな、何だよ急に…」
いきなりの事に顔をほんのり赤くし、慌てる真昼。