Word

□“Life’s but a walking shadow”
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「…真昼達も、吸血鬼も……敵である筈の、ぼくも…」


「…蒼は、ライラのこと敵だなんて思ってないんじゃないか?」




「うん、そうだと、思う…。何で、かな…本人に聞いた訳じゃないのに…。確かな感じがするんだ…」




夜空に浮かぶ月を仰ぐライラック。
つられるように、真昼も月を仰いだ。
ほのかに輝く月に思いを馳せて、静かな時間が二人の間に流れた。




































――――――――――……




その頃、話題にされている当の本人は、風呂上がりにとぼとぼと廊下を歩いていた。
髪を下ろし、頭に旅館の手ぬぐいを掛けたまま…心ここにあらずという様子だった。
小鳥姿で蒼の肩にちょんと乗っているロッカは、心配しながら声を掛けた。




『おい、ぼーっとしてるとコケるぜよ。少しは興味持たんと…』



「うん…」

『はぁ〜…あのガキと喧嘩して逃げてきよって、帰っていきなり泣き出すしのぉ…』

「……」

『落ち着いたのはええが、落ち着き通り越して暗くなってどうするがだ?』

「…何で、もっと冷静に言えなかったのかなぁ…。真昼くんだってつらい筈なのに…」

『ゆうても仕方ないじゃろ。つか、お前さんどこ行く気だ?』


「へ?」




気が付くと、蒼は真昼が泊まっている部屋の前に来てしまっていた。
自分が借りている部屋へ行こうとした筈が、間違えたらしい。







「…真昼くんに、謝らないと……私も言い過ぎちゃったし…」


(いるかな…?)そう思いながら襖をそっと開ける。
覗き込む様子の蒼にロッカが『おい、こそこそ開けるんじゃなが。堂々と入ればいいきに』と突っ込む。
蒼は「だ、だって〜…」と小声で返しながら戸惑っている。
そこへ…。









「おい…」




「ひぅっ!!な、なに!?」


肩を思い切り上げ、ビクゥッ!!と驚く蒼。
「ごめんなさいごめんなさい…!」と目をぎゅっと閉じながらぶつぶつ呟いていると、声を掛けてきた者がもう一度呼んだ。


























「何やってんだ…?蒼」




「へ…?」


掛けてきた声はよく知っている声。
聞き覚えのあるその声がどこから発しているのかキョロキョロと見渡してみると、靴を入れる戸棚の奥に黒い小さな影が見えた。
その正体が分かった蒼は目をキラリと輝かせる。






「クロ!」


「なにやってんだ…?」

「あ、えと…その…」

「?」


口を噤む蒼に、小さな影の正体だった猫のクロは首を傾げた。
入口と部屋の間で隔たれている襖は閉められたまま。
ライラックと話をしている真昼には気付かれていない。
少しほっとする蒼はクロにおずおずと問い掛けた。





「そ、その…隣、行ってもいい、かな…?」


「?別に、普通に入ってくりゃいいだろ…」

「う、うん…」


そっと入口に入ってくる蒼は、段差の床にストンと座る。
だが座っただけで、蒼は何も喋らなかった。
徐に、クロの頭を優しく撫で始める。





「クロ、ごめんね?」

「ん?何が…?」





「あの時、公園で……びっくりしちゃったよね…真昼くんと、喧嘩なんて…」


「あー…」

「ごめんね?大声出しちゃって…」

「別に…。つーか、それを真昼に言いに来たんじゃないのか?」

「いや、その…ぼーっとしてて、気が付いたらここに来ちゃってて…この際だから謝ろうと思って…」

「ふ〜ん…」

「でも、そこにいた皆にびっくりさせちゃったし…だからクロにも、ごめんね?」

「もういいだろ…別に気にしてねーし」

「ん…ありがとう」

「……」


何も言わないクロ。
それでも側にいたまま動かないクロに、蒼はふっと笑みを零した。
撫でている手を止めて「クロ、抱っこしていい?」と控えめに尋ねる。
謝罪したとはいえ、やはりどこかで気を遣っているようで…。
クロはけだるげに「おー…」と返した。

了承を貰った蒼はクロを抱きかかえ、また優しく頭を撫で始める。
だが少しずつ動作が遅くなり、しばらくして撫でていた手が止まった。








「…ねえ、クロ」

「んー…?」

















「私、間違ってるのかな…」


「…?」






「真昼くんに言われて、良かれと思ってしてきた行動が…間違ってたのかなって。

 でも、守る為にしている事なら、間違ってないって思いたい。

 思わなきゃ、自分のしてきたことは何だったの?って、考えることになってしまう」




「!」


蒼の言葉に目を見開くクロ。
その後すぐに、蒼の手から震えが感じられた。
クロの毛並が小さく揺れる中、蒼は怯えるように肩を縮こませ、クロにしがみつくようにぎゅっと抱きしめる。
「お、おい…」さすがのクロも様子がおかしいと思い声を掛けた。





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