Word

□戸惑いの先にあるもの
1ページ/9ページ




   #29.戸惑いの先にあるもの





立ち去ろうとするヒガンに向き合い、真昼を守るように立ちはだかる蒼の姿。
そんな蒼に、真昼は言葉を掛けることができないまま、ただ座り込んでいた。
ヒガンは飄々とした表情で蒼に問い掛ける。





「リヒト君と同じ目つきだねえ。強い目だ。その目で、君はどんな想像(イメージ)をするんだい?」


「……」

ただ沈黙を守る蒼。
静かに右手を上げ、手首に結ばれた白いリボンに左手を掛けた。
するっと解いていくと同時に、蒼は漸く言葉を口にした。













「ただの飾りで貰った力なら…必要ない。守る為にある力なら…使うことに躊躇う必要は…無い!しゅるっ




チカッ!



手首にある模様が輝き出す。
光はうねりながら蒼の前で形付いていった。
真っ直ぐ伸びた棒状に、先端にはマイクのような形が現れた。
以前、灰塵(ジン)が大量発生した時にロッカによって呼び覚まされた蒼の武器(リード)。
それ以来使う事はなかった。
否、使う事を無意識に躊躇っていたのだ。
その無意識を取り払い、自分の武器(リード)を手にした蒼がそこにいる。
マイクとは反対側に、コードを表わしているであろう鎖が蒼の手首に繋がっていた。








「ほう、これはこれは、オジサンも驚きだ。まさか武器(リード)を持っていたとはね」


ヒガンは一度リヒトを地面に置き、戦闘態勢に入る。
リヒトの時と同じ、手から炎が燃え上がった。
一方で蒼もマイクを手に戦闘態勢に入る。
マイクで呼びかけるように、響いた声で言葉を発した。







「炎は、よく燃える…」



すると周りの水場から水が集まってきた。
何十、何百センチとある大きな水玉が、蒼の上に並ぶ。
「よく燃えるなら…」握ったマイクを天に掲げるように上へ投げると、繋がれていた鎖が真っ直ぐに型取り真下へ落ちた。
スタンド型マイクに変化した武器(リード)をパシッと掴むタイミングで一つの水玉が反応し、小さく揺れる。
そして…。

















「水で消してしまえばいい!!」ブンッ!!



ヒュッ


揺れた水玉が、スタンドを振り下ろしたと同時にマイクをヒガンに向けた瞬間、対象者めがけて飛んできた。
軽々と避けたヒガンだったが、交わされた水玉はくるりと方向転換しヒガンの背中に命中した。






「ぐっ!」

水圧を兼ね備えた水玉は、まるで大きな鉛玉のようだった。
背中に痛みが走るヒガンは膝を地面につけた。







「たは――――…やるねえ、お姫様。でもこんなんじゃ、オジサンは倒れないよ?」



とてつもない速さで向かってくるヒガン、蒼はマイクスタンドを構え払いのけるように攻撃を交わす。
圧されてはいるが、どうにか目で追い次々と交わしていく蒼に、ヒガンは感心した。






「ほう、攻撃を交わすか…。目はいいんだね」


「…っ」

「だが交わすだけじゃ、何も変わらないよ?」

「……ふっ」

「うん?」



意味有り気な笑みを浮かべた瞬間、頭上に携えていた水玉の二つがヒガンを直撃した。
地面に倒れているリヒトの近くまで吹っ飛ばされる。
ぽたぽたと地面に落ちてくる沢山の水滴が、大きな円となって描かれていくのを、ただ黙って見ていた。
ヒガンにも笑みが零れた。







「いやあ、大したもんだなあ。オジサン感心するよ。…でもね?」

「!」






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ