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□戸惑いの先にあるもの
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#29.戸惑いの先にあるもの
立ち去ろうとするヒガンに向き合い、真昼を守るように立ちはだかる蒼の姿。
そんな蒼に、真昼は言葉を掛けることができないまま、ただ座り込んでいた。
ヒガンは飄々とした表情で蒼に問い掛ける。
「リヒト君と同じ目つきだねえ。強い目だ。その目で、君はどんな想像(イメージ)をするんだい?」
「……」
ただ沈黙を守る蒼。
静かに右手を上げ、手首に結ばれた白いリボンに左手を掛けた。
するっと解いていくと同時に、蒼は漸く言葉を口にした。
「ただの飾りで貰った力なら…必要ない。守る為にある力なら…使うことに躊躇う必要は…無い!」しゅるっ
チカッ!
手首にある模様が輝き出す。
光はうねりながら蒼の前で形付いていった。
真っ直ぐ伸びた棒状に、先端にはマイクのような形が現れた。
以前、灰塵(ジン)が大量発生した時にロッカによって呼び覚まされた蒼の武器(リード)。
それ以来使う事はなかった。
否、使う事を無意識に躊躇っていたのだ。
その無意識を取り払い、自分の武器(リード)を手にした蒼がそこにいる。
マイクとは反対側に、コードを表わしているであろう鎖が蒼の手首に繋がっていた。
「ほう、これはこれは、オジサンも驚きだ。まさか武器(リード)を持っていたとはね」
ヒガンは一度リヒトを地面に置き、戦闘態勢に入る。
リヒトの時と同じ、手から炎が燃え上がった。
一方で蒼もマイクを手に戦闘態勢に入る。
マイクで呼びかけるように、響いた声で言葉を発した。
「炎は、よく燃える…」
すると周りの水場から水が集まってきた。
何十、何百センチとある大きな水玉が、蒼の上に並ぶ。
「よく燃えるなら…」握ったマイクを天に掲げるように上へ投げると、繋がれていた鎖が真っ直ぐに型取り真下へ落ちた。
スタンド型マイクに変化した武器(リード)をパシッと掴むタイミングで一つの水玉が反応し、小さく揺れる。
そして…。
「水で消してしまえばいい!!」ブンッ!!
ヒュッ
揺れた水玉が、スタンドを振り下ろしたと同時にマイクをヒガンに向けた瞬間、対象者めがけて飛んできた。
軽々と避けたヒガンだったが、交わされた水玉はくるりと方向転換しヒガンの背中に命中した。
「ぐっ!」
水圧を兼ね備えた水玉は、まるで大きな鉛玉のようだった。
背中に痛みが走るヒガンは膝を地面につけた。
「たは――――…やるねえ、お姫様。でもこんなんじゃ、オジサンは倒れないよ?」
とてつもない速さで向かってくるヒガン、蒼はマイクスタンドを構え払いのけるように攻撃を交わす。
圧されてはいるが、どうにか目で追い次々と交わしていく蒼に、ヒガンは感心した。
「ほう、攻撃を交わすか…。目はいいんだね」
「…っ」
「だが交わすだけじゃ、何も変わらないよ?」
「……ふっ」
「うん?」
意味有り気な笑みを浮かべた瞬間、頭上に携えていた水玉の二つがヒガンを直撃した。
地面に倒れているリヒトの近くまで吹っ飛ばされる。
ぽたぽたと地面に落ちてくる沢山の水滴が、大きな円となって描かれていくのを、ただ黙って見ていた。
ヒガンにも笑みが零れた。
「いやあ、大したもんだなあ。オジサン感心するよ。…でもね?」
「!」