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□ひとり
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   #30.ひとり





ひょこっと現れる、小さな黒い存在。
てってってっ、と横たわるクロに近付いた。




<まーたこんな暗いとこで怠けてる まさしく怠惰!>


<でもそのほうが世界は平和でいいかもね>



ぽすっとクロに寄りかかる様に座る。
あえてその存在は…。






<ねえ“クロ”>


そう名前を呼んだ。







<ここなら誰も起こしに来ないし>


ちりん

言葉をかき消すように、鈴を鳴らした。
契約の際、真昼から貰った鈴。
指でころころと揺らしている。






「……うるせーなあ…」

ちりん ちりん











(なにも、考えたくない……なにも、知りたくない……なのに…)


ちりんと鳴り響く音色と同じような存在が、頭の中を過った。
消えていく鈴の音は、その存在が暗闇に消えてしまうような想像を与えてくる。








(……蒼……お前は……)






















     ―――――お前は 一体 何者なんだ ?―――――






考えたくないという気持ちとは裏腹に浮かぶ、蒼に対しての疑問。
答えが返ってくるわけでもないのに問いかける。
そうして、考えるのを止めていく。
クロはほんの少し、蒼に対して今までとは違う思いを胸に留めた。





















































――――――――――……





XXX年前







すぅ…



(……どこだろう…ここ……)


暗闇の中、不気味に佇む一軒の家。
埃が積もり、蜘蛛の糸が張り巡る建物の中に、体の透けた蒼がゆらりと立っている。
辺りを見回し終えると、自分の透けた両手を見つめる蒼。
今自分がどんな状況なのか、瞬時に理解できた。




(ああ…また、誰かの過去の世界だ…)


すると、大きなドアの向こうから知っている声が聞こえた。






『ひっさしぶりに集まったと思ったら』


(っ!この声、ロウレスさん?)


蒼はドアまで一直線、一旦目の前で停止し、おず…と手を伸ばした。
透けている蒼の体は簡単にドアの向こうへといざなう。
きゅっと唇を噛みしめ、そのまま前へと一歩一歩動かした。
そして、目の前に広がる光景に目を見開いた。








(っ!?)


『こ――んな話題しかないなんて、ほんと最悪っスよ!』


(眼鏡かけてないけど、ロウレスさんだ…!)






『…まあ、そう仰らず。大変な問題なんですから…』


(髪を結んでるけど、リリイさんだ…!)






『悩むまでもねえだろうが!!答えはNO!オレ達は頼まれて人間を殺すなんてやらねえんだよ!!』


(あの人は、知らない…でも、ロウレスさんもリリイさんもいて…)






『……』

『人間なら、そうじゃがのう』


(被ってる物が違うけど、ジェジェさんだ…。それに、ヒューちゃんも…)




『…あの人を、人間ではない と位置付けているというの?』


(あの女の人も、見たことない…けど、ヒューちゃん達もいるってことは…クロと同じサーヴァンプの兄弟…?)







『…そう睨むでない。じゃからそれを多数決で決めようというのじゃ』


(なに?揉め事?喧嘩、してるの…?)


















『C3からのこの命を 受けるか 否か』







     “To be, or not to be”



     “that is the question.”













(C3からの命?命令ってこと?人間を殺すって言ってた…命令って、誰かを殺せっていうことなの…?)


とても和やかとは言えない内容に、蒼はごくりと息を呑みながら話を聞き続けた。




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