☆リクエスト☆
□『その日、エレンは見た。』
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『その日、エレンは見た。』
「全然なってない。全てやり直せ」
もう聞き慣れた兵長の声が、リヴァイ班の耳に響いた。
兵長の機嫌が悪い。
いつもの眉間のしわが3割増しに濃くて、巨人も逃げ出したくなるような形相だ。
「おいエレン、ふざけるなよ。なんだ、これは」
「はっ!…えーと…ナメクジ…ですかね?」
「お前はナメクジを飼育する趣味でもあるのか」
「いや、ないですよっ!」
これはある意味仕方がないことなのだ。
この時期は雨が多くて湿気も半端ない。
なおかつ、この古城ときたらそれはもう通気性が悪くてじめじめしている。
このナメクジだって、悪気があって俺が持っている箒の上にしがみついている訳ではないはずだ。
「兵長っ、早くこれ取ってくださいよ!!」
「馬鹿野郎!こっちくんじゃねぇ…!」
バキッ!…と恐ろしい破壊音がした。
もちろん、俺のことを身を挺して守ってくれた箒の絶叫だ。
箒はきれいに真っ二つになってしまった。
しかもその衝撃で、ナメクジが…。
…ナメクジが…。
ぽとり。
そんな可愛い音がして、ナメクジは兵長の肩に華麗に着地をしてみせた。
その後、兵長は蒼白な顔で気絶した。
しかし目が覚めた後、ナメクジが着地したシャツを無表情の据わった、目で塩水につけて洗っているのを俺は目撃した。
…これが、今朝の悲劇の出来事。