『おかえり。』
□T 頼まれ事 〈side:zoro〉
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一つの冒険が一段落し、毎度毎度の宴の席では、自称「海の一流コック」によるご馳走が振る舞われ、船長始めクルー全員は飲めや歌えの大騒ぎ。
ただし、無口な1人の客人は重傷を負い、医務室にて深い眠りについている。
しばらくして皆の食欲が落ち着いた頃、コックは皿の片付けをし、今度は酒のつまみ作りに取りかかる。
マメだな…。
いつ食べてるのか疑問に思う。だが、戦闘時にはあの細身な体で信じられない程の力を発揮する。昼夜問わず人目も気にせずにトレーニングしている自分とは明らかに違う。
負けたくねェ…!
決意を新たにして酒を口に含もうとした時、目の前が人影に覆われた。
「…ゾロ、ちょっといいか?」
初めて聞くような静かな声だった。声の主は、口にくわえていた煙草を簡易灰皿へおさめた。
「マリモ」でもなく、普段ひっきりなしに吸っている煙草までも消したコック。そのただならぬ雰囲気を一瞬にして感じ、周囲をうかがう。
芝生の上でフランキーの新作メカに目を輝かせている残りの男達。その様子をにこやかに見ているロビン。あと一人は…。
「ナミさんはローの所だ。」
「…!?」
「おれがローの食事を頼んだ。」
ナミの傍に男が少しでも近くに寄ろうものなら、自慢の足蹴りを飛ばすこの男が…!? 特にローが近寄ると人一倍くってかかっていたこいつが…!?
「どういう風の吹きまわしだ?」
「別に。普通だろ…?」
言葉とは裏腹に現在のその二人を気にしている様子が明らかに見てとれる。鈍いおれが見ても分かる程の動揺ぶりなのだから、他のクルーが見たら更に無理が見え見えだろう。
だが、そうまでしておれに話してェこととは何だ?
その場に酒の瓶を置いたまま立ち上がり人気のない方へ向かった。コックもおれの後についてゆっくりと歩く。
皆に声が聞こえないであろうことを確認し、おれは振り返る。
「…で、何だ?」
コックは一呼吸してから少しうつむいた顔を上げると、おれの眼を真正面から見据えて言った。それはまったく予想しなかった一言だった。
「おれは、一度この船を降りる。」
「…!?」
こいつ、何を言ってやがる!?
そんなおれの様子はコックには想定内だったのだろう。落ち着いた様子で視線を外し、横を向いた。長い前髪で表情はおれからは見えない状態で、かまわずに話が続けられた。
「10日間分の食料をまとめて、レシピと共に用意してある。調理は…野郎共には無理だから、ナミさんとロビンちゃんにお願いするしかねェだろう…。レディの綺麗な手を煩わせちまうのは気が引けるが…。」
しばしの沈黙。やっとおれの口は開いた。
「ルフィには…?」
「言ってねェ。…お前だけだ。」
「何でおれなんだ?船長はルフィだろ…!」
「もし言ったら、あいつはどうすると思う? 」
「…許さねェだろうな。」
コックの口の端が少し上がった。
「だろ?だからゾロ、…お前なんだ。」
「おれだったら許すと思ってるのか?」
普段はムカつく野郎だが、常に仲間のことを考え、大切に思う姿はさすがにおれも認めている。その仲間を置いていくということが、こいつにとってどれほど苦しい決断だったのかは計りしれねェ。
「さあ…何となくお前ならわかってくれそうな気がしたんだよ。…何だかわかんねェけど。」
あぁ、わかるさ。てめェが一時でも仲間から離れる決意をするなんてのは余程の理由があるからだ。
話したくねェだろうことは百も承知だが、おれはあえて言葉に出した。
「とんでもねェことを了承させるには、それなりの理由を話さなければいけねェと思うが…?」
コックはやっぱりな、と言うように溜め息をつく。
おれは続けて言った。
「全部話さなくても構わねェ!ただ、おれを納得させろ。」