『おかえり。』
□W 忠告〈side:law〉
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「保留だ。」
「え?」
「おれがお前に言ったことは、保留にしといてやる。」
「何よ、急に…!?」
「…ただし、お前が黒足屋以外を選んだ時は保留解除だ。力ずくでおれのモノにする。」
「勝手に決めないでよ!自分のことくらい自分で決めるわよ!」
おれの変化に気付いたらしいナミ屋の態度は、普段の気の強いモノに戻っていた。
「おれは本気だ。」
「そう言えば何でも済むと思ってるんでしょ!?」
「おれが言ったことの中に間違いがあったか?」
「…。」
図星だ。わかりやすい。
この女はホントに無頓着だ。自分がどれだけ男を惹き付けるかわかっていない。彼女の一つ一つの態度が男を本気にさせる。
「これ以上いると、おれの気がまた変わりそうだ。食い終わったから出て行け。」
「ずいぶん勝手ね。」
「…いいか?おれは今振られたんだ。その原因がこの距離にいると困るだろ?お前、ホントに鈍感だな。」
これは正直なおれの気持ちだ。だがこの鈍感な女は決してそれがおれの本心だとは気付かないだろう。
少し忠告でもしといてやるか。
「鈍感なお前に忠告だ。おれにしては珍しいことだ。よく聞け。」
「鈍感、鈍感て何度も言わないでよ!」
おれは気にせずに続ける。
「さっきお前が聞いただろ? おれが飯を食ってる間、黒足屋は何をしているかって。」
「あっ…そう言えば。」
「あいつは、いつもその辺りに腰を下ろして寝てる。」
おれはベッド横の床を指差す。
「寝てる…?」
ナミ屋は明らかに驚いている。少しはおれの言いたいことが分かるだろうか。
「この部屋では煙草はくわえても、あいつは律儀に火はつけないからな…。手持ちぶさたなんだろうが。」
そう、いつも。
黒足屋は「食い終わったら起こしてくれ。」と言って、ベッドに寄りかかるように腰を下ろし、居眠りをするのだ。
ナミ屋の話でぶちギレた後でも、黒足屋は少しすると冷静になる。おれが重傷なこと、そしてきっとトニー屋におれの食事のチェックを頼まれていて、食事中は見ているように言われているのだろう。
あいつは損な性格だと思う。本来持つ優しさと料理人としてのプライドがそうさせている。
居眠りをするのも、最初はそれがあいつのイライラした気持ちの静め方だと思っていた。だが、言われた通り食後に起こそうと声をかけても反応がない。
本気で眠っている。
おれは真面目に驚いた。黒足屋の性格からして、こんなおれに警戒を解くはずがない。…なら、何故こんなに熟睡出来るのか?
やがて一つの結論に達した。
おれが自分に何も要求しないと分かっているからだ。だから、落ち着いて寝れるのだろう。放っておくと一時間以上、平気で寝ている。
「起こせって言っただろうが!」
と怒って出ていくけれど、また次の機会には眠る。