宝箱

□SHIRO様より『Please be my bride』
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「年が明けて、休み呆けも一段落ついた、そんな昼休み。

「ビビ、今度の休み予定あいてる?」

バーゲンが始まるし、一緒にどうかな。

お互いに荷物を持ってくれる相手がいないわけじゃないけれど、やっぱり買い物は女同士に限るわよね。

そんな軽い気持ちで同僚に話かけると、彼女は可愛らしい眉毛を八の字に変えた。

「ごめんなさいナミさん、その日はちょっと」

本当に申し訳なさそうに言うものだから、私も慌てて首を振る。

「大丈夫、大丈夫、バーゲン行かないかなー?と思っただけだから」

何度も謝るビビのおでこにデコピンをを食らわせる頃には午後の仕事開始のベルがなった。

一見正反対に見える私とビビは、その通りまったくもって好みも育ちも何もかもが正反対だったけれど、何故だかとても気が合った。

会社に就職したばかりの時、お嬢様でお茶くみも満足にできない彼女に見かねて手を貸したのが始まりで、それからすぐに仲良くなって、今や親友と呼ぶ程だ。

そんなビビから衝撃的な告白を受けたのはつい先日の事。

「それじゃナミさんお先に失礼します」

「はいはーい、あ、愛しのコーザさんによろしく!」

「もう、ナミさんたら、でも、うん、言っておきます」

終業のベルがなると彼女はそんな言葉を残しつつ、嬉しそうに帰って行った。

幼馴染の彼と思いが通じあったと話していたのが三か月前。

それからが怒涛の連続で、一か月の間に結婚までこぎつけたというのだから。

人生どうなるかわからないものだ。

「あ、そっか」

よくよく考えれば気が付くものの、自分の気のまわらなさに苦笑する。

「もうすぐ出来上がるんです、婚約指輪」

数日前に彼女が夢見るような顔で語っていたこと、そうかそろそろ。

結婚した後も仕事は辞めないと言っていたから何が変わるわけでもないのだろうけど、妹をとられたようなちょっと悔しい気持ちにセンチだわぁと呟いて残った仕事を片付けにかかった。



詰まった仕事を終えると、すでに空は日が落ちて薄暗い。

暖かそうなお店の明かりを横目に、寒さに肩を竦めながら早足になった。

通り過ぎるカップルが手を繋いで歩いて行く、片方ずつ手袋をして空いた手を繋いで彼のポケットへ。

その幸せそうな女性の顔とビビの顔が重なった。

「結婚ねえ」

彼女たちを思い浮かべてはそんな事ばかりを考える自分に苦笑する。

相手が居ないわけじゃない、長らく一緒に暮らしている金髪あたまを思い浮かべる。

そう、彼の事を愛しているかと聞かれれば、もちろんと答えるし、彼も自分を好いてくれているという自負もある。

サンジくんはどう思っているのかな。

互いに仕事が楽しくて、ここまでずるずると関係を変えないで来てしまった。

無理に変えようとも思わないけれど、ビビの楽しそうな顔を見ているとそれもありなのかな。

なんて、らしくない考えが浮かんだ。



マフラーに顔を埋めるように通勤で使っている路線への道のりをあるく。

「寒いな」

ビビにあてられたせいだわ、今度ご馳走してもらわなきゃ。

そんな理不尽な事を心で誓っていると見えてくるいつものバス停。

そこに見慣れた金髪を見つけた気がして、やだ、と小さく零した。

寒いと思考まで寂しくなっていやだわ。会いたいとか、そんな、どこの乙女よ、家に帰れば会えるのにね、あれ、早番って言ってたかな、もう帰ってるかな。

幾度となく言い訳をしながらも。通い慣れた足はいつもの場所へと導いていく。

ようやくはっきりとその男性を確認すると、自分でもまぬけだとは思うけれど

「サンジくん?!」

ちょっと大きめの声が出た。



職場への方向が違うから、こんな場所で会うはずがないのに。

小走りで近づいていくと、この寒い中ずいぶん長く待っていたのか、私をみつけてへらっと笑ったサンジくんの顔色が何時もより随分と白い。

「やだ、いつから待ってたの?冷た!もうどこかに入ってればよかったのに」

慌ててマフラーを彼の首に巻こうと伸ばした手を取られる。

「ちょっと」

「いいから」

「でも風邪ひいちゃうわ」

「おれ馬鹿だから大丈夫」

何がどう大丈夫なのか。

思わずため息をつく。あーもう、こんな街中で口論なんて。

先程までの甘く切ない気分はどこへやら、私達に限ってはしばらく結婚なんてのはなさそうね。

「とにかく、どこか入りましょ?あったかいもの飲めるところ…」

取られた手を握り返して、彼を促す。

しかし、サンジくんは無言のままその場を離れようとはしなかった。

「どうしたの?」

「いや、ごめん…いざとなると緊張しちまって…」

なにが?

今日の彼は謎ばかりだ。しばらくうんうんうなっているサンジくんを観察していると、どうやら吹っ切れたらしく。

「ナミさん」

「な、なに?」

突然真剣なトーンで話始めたかと思ったら、握っていた手に、正確には指に、冷たい感触を覚えて身震いした。

「ごめん、冷たかった?」

左手の薬指。そこには確かに輝くシルバーの輝き。

「なんで、これ…」

「ナミさん、重大な発表があります」

思考が追い付かない私を余所に、サンジくんは今までの緊張が嘘のように喋り始める。

「え?」

「おれ、自分の店が持てることになったんだ」

「え、そん、えほんと!やったじゃない!すごい!」

思わぬ急展開に、一瞬指輪の事も忘れてしまった。

だって自分の店を持つことは彼の幼い頃からの夢だったのだから。

照れたように微笑む彼に、ここが公共の場でなければキスの一つも贈りたい。

「うん、ありがとう、それでさ、ここからが本題なんだけど」

彼は一つ大きく息を吸い込んだ。

「これから忙しくなるし、店もうまく行くかはわかんねぇけど」

「うん」

「それでも、ナミさんが居るだけでおれは幸せだし、ナミさんも絶対幸せにするから、これからもずっと傍にいてほしい」

あーあ、やだな、みっとない。

結婚なんて無理するもんじゃないとか、ついさっきまでかっこつけてたの誰だったっけ。

こんな人前で、皆見てるのに、メイクも崩れちゃうしあーもう。

「結婚しよう」

その一言を本当は待っていたのかもしれない。

「返事は?」

不安そうなサンジくんの顔に泣きながらも笑ってしまう。

きっと彼と出会った時から、覚悟なんて決まっていた。

「あたりまえでしょ!」

周囲の人からのひやかしのような祝福の拍手、大声で歓喜の雄たけびをあげるサンジくん。こな雪まで降ってきてとんだロマンチック。

らしくない、ほんとに恥ずかしいったら。

それでも彼と一緒なら悪くない。

名前ははちょっと変わるけど、この想いはこれからも変わらない、もっと大きくはなるかもしれないから、あなたも覚悟してね。



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