炎のゴブレット
□15.パッドフット帰る
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「待って…ください……」
石ころだらけの足場の悪い坂道を走って登るとなると容易ではない。
半分も登りきらない所で息を切らしほぼ徒歩のペースで坂を上っていた。
その上太陽に照らされコートを腰に結び、汗を拭う。
この調子では犬を見失うと思ったがアゲハを案内するかのように犬は時折後ろを振り向きペースを合わせてくれているようだ。
犬がするりと視界から消えた。
アゲハがその姿の消えた場所まで行くと、以前の狭い岩の裂け目があった。
裂け目に体を押し込むようにして入ると、中は涼しく、一番奥に大きな岩にロープを回して繋がれているヒッポグリフが目に入った。
下半身は灰色の馬、上半身は巨大な鷲、バックビークだ。
バックビークはアゲハの姿を見ると獰猛なオレンジ色の眼をぎらぎらさせた。
だがアゲハが丁寧に深々くお辞儀をするとバックビークは一瞬尊大な目つきで見たが、鱗に覆われた前足を折って挨拶した。
「さあ、話してもらおう」
声の方向を見るとシリウスが立っていた。
シリウスは痩せこけてはいなかったものの黒い髪はぼうぼうにもつれ、服はボロボロだった。
灰色のローブはアズカバンを脱獄したときと同じように見えた。
「疑って…ますよね…」
「どうだろうな」
「縛ったりしないんですか?」
「そうだなぁ…内容次第だな」
シリウスは悪戯っぽい怪しい笑みを向けた。
アゲハは唾を飲む。
緊張しながら洞窟の床に座り込んだシリウスを見かねアゲハも続いて座った。
「率直に聞こう。私のことを誰から聞いた?なにが目的だ?」
シリウスの言葉には落ち着いた口調だがどこか威圧感がある。
「え、えっと……」
(こういう場面苦手なんだよね…)
そういえばこんな場面が前にもあった。
アゲハは必死に何か良い返答はないかと脳味噌ををフル回転させる。
目の前にいるシリウスの目は笑っていない。
このままではどんなに上手い嘘をついても信じてくれそうにないだろう。
黙っているという手もあると思ったがそれでは一向に埒が明かないということは検証済みだ。
アゲハはついに折れ、最終手段を使う決心をした。