炎のゴブレット


□15.パッドフット帰る
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「別世界の未来から来たってことか?」

アゲハはシリウスにダンブルドアにしか言っていない秘密を打ち明けた。
シリウスは始めこそ想定外の返答に驚いていたものの最後まで静かに聞いてくれていた。

「はい。言っても信じてくれないだろうけど、事実なんです。ダンブルドア先生には次元がどうちゃらこうちゃらって言われたけど。このことは――」
「秘密は守る」

シリウスは言葉を引き取り微笑んだ。

「信じてくれるんですか…!?」
「ああ。元々さほど疑ってはいなかった。ただ、念のため…な」
「え、私が言うのも何ですがそんな簡単に信じちゃって良いんですか!?」

シリウス・ブラックともあろう人がこんな意図も簡単に他人を信用してしまって良いのだろうか。
反対に心配になってきた。

「長年の勘だ。俺の鋭い勘が君は安全だと言ったのさ。そういえば名前を聞いていなかったな」
「ホグワーツ6年生のアゲハ・スズモリです」
「知っていると思うがシリウス・ブラックだ。よろしく、アゲハ」
「こちらこそよろしくお願いします、シリウスさん」

“ブラック”という苗字は嫌なんだろうなぁと名前で呼んだ。

「“さん”は不要だ。固いのは苦手でね」

シリウスはニタァと子供のような笑みを浮かべた。
身なりを整えたらなお一層イケメンなのだろう。

(さすが公式イケメン…)

きっとこの笑顔で多くの女性を落としてきたのだとアゲハは思った。


「一つ聞いていいか?今年のヴォルデモート復活のためにハリーが代表選手に選ばれたということは関係があるだろう。だがそれを手助けしているのは誰なんだ?」
「それは……」

アゲハは言葉を詰まらせた。
痛いところを突かれた。
ダンブルドアにすら話していないことを他の人に言えるはずが無い。

「分からないの…ごめん」
「そうか……分かった。気にするな」

叔父の立場でもあるシリウスはハリーが心配なのだろう。
力になれず申し訳ないがこればかりはだめなのだ。
シリウスは残念そうな声を出したが元の声色に戻り、俯くアゲハの肩を叩いた。


「そろそろ行った方が良いよね。この後ハリーたちが来るでしょう?」
「そんなことも分かるのか…」

シリウスは驚きつつも感心した様に呟いた。

「そうだな。改めて礼を言うよ、ありがとう。君がいなかったら毎日ネズミばかり食べて生きていただろうからね。バックビークが誤って食べるまで毒入りだと思って手を出さなかったんだが、無害だと知ったら貪るように食ったよ!」
「“誤って”って…。まあバックビークとシリウスが元気そうで良かった」

笑い飛ばすシリウスに対しアゲハは思い返して自分の計画性の無さを反省した。

「さっきのお菓子もあげる。何かあったらいつでも言って」
「それはこちらのセリフだ。アゲハには借りが出来たな」

シリウスはアゲハの心配もよそにハリーたちの迎えも兼ねて送ると言い張った。

洞窟の外に出ると長い間暗い場所にいたため視界が真っ暗になる。
目が慣れてくる頃には隣には黒い犬がしっぽをユサユサと揺らしながら寄り添って歩いていた。

(帰りにまたハニー・デュークス寄ろう)

そんなことを考えているアゲハに対して、黒犬は証拠なしに隣で歩いている少女が荒野に咲く一輪の花のように思えた。

“この世界”を変えてくれる存在になる。

餌付けされたからなのだろうか、そんな気がした。
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